南くんのとなり | ナノ
先生のお願い
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隣のクラスの友人が言うには、今日も南君は学校を休んでたみたいで。なんでも原因は風邪らしくて、私は事故や病気じゃなくて良かったと内心でホッと息をついた。



「私って、運が無いのかな・・・」


豊玉に入学してから何度か日直の仕事をしたけど、本来は二人でこなすはずなのにそのほとんどをいつも一人でこなしてたりする。部活だったり家の用事だったり、あとは単に忘れてるだけとか・・・とにかく理由は様々だった。


最後の記入欄を適当に埋めて、日誌を閉じた。帰り支度をしてからそれを持って職員室へ向かう。あとは担任に提出してしまえば今日はもう帰れるから、少しだけ肩の力が抜けた気がした。


「お、名字やないか!ちょうどええとこに!」


日誌を出し終わって、さあ帰るぞというとき。かけられた声に振り返ると、そこにいたのは去年までの私の担任だった。・・・ちなみに、南君は今年もこの先生のクラスだったりする。


「・・・なんですか」


正直、先生に呼び止められるなんて何か雑用でもさせられるとしか思えなくて、私は少し身構える。そんなのはお構いなしに、「これ届けてくれへんか」という言葉とともにプリントが入ったファイルを渡される。


(う、やっぱり雑用・・・)


先生の頼みごとなら仕方がないかと、半ば投げやりに「お届け先はどこですか?」と聞けば、何故か意味ありげに微笑みながら「もちろん南や」と返ってきた。その名前を聞いてついドキッとしてしまったのを誤魔化すように、前髪を直すふりをして自分を落ち着かせる。


「えっと・・・どうして私が?っていうか、もちろんって、何ですか」


先生の言い回しがなんだか引っかかってそう訊ねれば、不思議そうな顔でしれっと「あん?付きおうてへんのか」とのたまったので、私は慌ててそれを否定した。


「ち、ちがいますからっ・・・」
「そうなんか、俺はてっきり・・・まぁ、どっちでもええやないか。家同じ方面やし仲良いんはホンマやろ?」


そう言ってハハハ!と陽気に笑う担任に苛立ちを感じる。まったく、繊細な女子生徒になんてこと言うのよこの先生は。
私は早くなった心臓の音を落ち着かせるために、軽く深呼吸をした。


「せや、家の場所は知っとるか?名字の家を通り過ぎてやな・・・」


軽く道順を説明した後、じゃあ頼んだと言い残して消えた先生の背中を気づかれないように睨んでから、盛大にため息をついた。

そしてその場から一歩踏み出した頃にはもう、先生がどうのよりも、手の中にある南君への届け物に意識が向いていた。




「南龍生堂・・・南君の家って薬局、なんだ?」


教えられた道順でたどり着いたのはそんなに大きくはない薬局。白い外観で、とても清潔感のある雰囲気があった。
ここに南君が住んでるんだと思った途端分かりやすいくらいに私の鼓動は早くなってて、自分でも笑ってしまった。

その裏手にあった自宅と思われる玄関で、震える手を抑えながらインターホンを押してみる。


(・・・誰もいない、のかな)


待っても仕方ないと思ってもう一度表側に戻った私は、恐る恐る、お店の中に足を踏み入れた。


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