南くんのとなり | ナノ
学年末テスト
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「名字、俺ええこと思いついたわ」
「・・・え?」


あとひと月で先輩方が卒業を迎え、私たちは最高学年になるという頃。私の中では、このクラスと別れるのがツライという想いと新しいクラスへの期待が、半分ずつくらいだった。

そして、そんなこと関係ないと言わんばかりに目下私たちに立ち塞がっているのは、誰もが嫌がる"学年末テスト"だった。



「ご褒美方式にしようで」


岸本君は机の上に両肘をついて、その上に顎を乗せていた。口と鼻の間にシャーペンを挟んでアヒルみたいな顔になってる岸本君が可愛くて、私は一人クスクスと笑う。
ついでに彼のノートの中に見つけた英語のスペルミスをしてあげると、素直にそのシャーペンを握り直して訂正していた。せっかく可愛い顔だったのに、残念。

「んでそのご褒美はなんやねん、岸本」と私の隣から岸本君に視線を向けているのは南君で、こちらもお決まりの頬杖をしている。


「それはな、お好み焼きや!」
「お好み焼き・・・」
「おん。せっかくこうやって集まってんねやから勝負せえへんか」
「はあ?勝負?」



岸本君が一緒にテスト勉強をしないかと私に頼んできたのは昨日のことだった。テスト前にようやく部活が休みになり、普段まったく勉強をしないらしい彼はとてもそんな風には見えなかったけど、結構焦っていたようで。「この通りや!」と両手を合わせられては、私には断る事は出来なかった。そしてその会話が聞こえていたらしい南君までもが「それ、俺も頼むわ」と岸本君と同じようにお願いするので、私はもう一度頷いた。

(むしろ、南君といられる今が、私にはご褒美だよ・・・)


思考回路を飛ばした私を置いて、岸本君と南君は話を進めていた。


「英語・数学・古典!俺らそれぞれの得意科目やろ。その合計点が低かったヤツの奢りや」
「アホ。俺らが名字に勝てると思うな」
「・・・そんな違わないと思うけど」


放課後、机をくっつけて勉強する私たちの他には、誰も教室に残ってはいなかった。確かに私たちは仲が良いとは思うけどこんなところを南君や岸本君を好きな女の子に見つかったら明日が怖いよね、と内心少し不安に思いながらも私はこの時間をしっかり楽しんでいた。


「ええやろ。その方がやる気もでるし」
「・・・まあ、そうかもしれへん」
「ふふ、決まりだね。頑張らないとなー」


二人が苦手な英語を教えたり逆に南君に数学を教えてもらったりしながら、テスト当日までの数日間、私たちは放課後の時間を一緒に過ごした。






「なんでやねんっ!」


返却されたテスト用紙を握りしめて、岸本君が机に突っ伏した。


「お前、古典得意やて言うてなかったか?なんやこの点数・・・ククッ」
「岸本君の奢り、だね」


得意な古典が足を引っ張った岸本君の点数が一番低くて、ご褒美のお好み焼きは彼の奢りということになった。


(南君・・・お好み焼きひっくり返すの、上手)


三人一緒にお好み焼きを食べに行ったその楽しい時間を胸に、豊玉高校の二年目は、あっという間に終わりを迎えた。


そして、私と彼らの最後の一年が始まろうとしていた。




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