南くんのとなり | ナノ
後輩の告白
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「南先輩、お疲れさまです」
「おう・・・」
「途中までいいですか?」


ここ最近、うっとうしいほど俺に付きまとうこの後輩マネージャーは、たぶん俺の事が好きなんだろう。誰が見ても分かりやすいそれに、岸本や板倉には冷やかされるし、先輩たちからも良くからかわれたりして正直面倒にさえ思えていた。

特に、わざわざ自分の教室にまで来てひっつかれるのは本当に困る。この姿が名字にどう見えてしまうかを考えると、俺は気が気じゃなかった。


(勘違いされたら、どうすんねん)



部活が終わり、門を出たところで待っていたマネージャーに「またか」と内心で盛大な溜息を吐いた。俺が何度も遠回しに突き離したところで、めげずに話しかけてくるその根性には感心する。だからといってそれを微塵も顔に出したりはしないが。

彼女がひとり楽しそうに話すのに対して、隣にいる俺は適当に相槌を打っていた。その話の内容は殆どが飼っている犬の話で、興味が沸くはずもなかった。
帰り道の間、考えていたのは先日のバレンタインの事だった。マネージャーが部員に配った手作りのクッキーは、岸本や他のやつらが星型だったのに対して自分の分だけがハート型だった。それを見て爆笑する岸本を一発殴り、俺はそのクッキーをこっそり板倉に渡した。甘いものが好きだとは言っても、とても食べる気にはなれなかった。

そういえば、名字がくれたトリュフとカップケーキは本当に美味かったのを思い出す。ただそれ以上に、俺が去年何気なく言っただけの言葉を覚えてくれていたのが嬉しくて。まさか本当に用意してくれているとは思ってもみなかった。

好きなやつにチョコをもらって嬉しくないワケがない。それが義理のチョコだとしても。豪華に飾り付けられた本命チョコをいくつもらっても何も感じなくて。ただ、名字から貰えればそれで良いと思えた。





いつの間にか分かれ道まで来て、俺は「それじゃ」と片手を挙げて背を向けた。が、数歩進んだところで呼び止められる。振り向くと、少し離れた場所で彼女が俯いていた。


「気付いてると思いますけど、私・・・先輩が好きなんです」


静かな住宅街の中でぽつりとそう言った。俺は離れた距離のまま彼女を見据え、一言「ごめん」と返した。それを聞いて彼女が泣いてしまっても、近づく事はしない。今優しくするのは違うだろうと、頭の片隅で自分に言い聞かせていた。


「・・・あの人、です、よね。ぅ、先輩のっ、好きなひと」


しゃくりあげて泣きながらこちらを見た彼女を、黙って見つめ返す。「・・・先輩のクラスの、名字さん」と続けられたのに、俺は迷わず頷いた。


「分かって、ました。先輩、ずっとその人を見とった、から・・・」


彼女は自分のタオルを顔に押し付けて少しすると、くるりと俺に背を向けた。しばらく無言が続き、大きく深呼吸した彼女がまた口を開いた。


「あーすっきりした。やっぱり望みのない片想いは嫌です」
「・・・」
「先輩、つきまとってごめんなさい。明日からはただのマネージャーに徹しますんで、これからもよろしくお願いします」




そのまま遠ざかって行った彼女が完全に見えなくなったところで、嵐の様なマネージャーだったな、と俺は重い溜息をついた。
ただ、自分の思いをちゃんと伝えられる彼女の根性にはやはり感心していた。



「そうやないとバスケ部のマネージャーなんかやってられへん、か」


(・・・寒っ。帰ろ)



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