南くんのとなり | ナノ
南くんの自覚
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「土屋・・・?」
「練習試合ぶりやね、南君。エプロンよう似合うてるよ」


「もうすぐ休憩やから、俺とまわらへんか?」名字にそう言おうとした時、俺たちの前に現れたのは大栄バスケ部の土屋だった。
クラスの女子たちが騒ぎだして、土屋の知名度が高いことを初めて知った。


「・・・ほな、南君。名字借りるで」


俺に向かって意味ありげに微笑んでから名字を連れて行った土屋の背を、俺は見えなくなるまでぼうっと眺めていた。

(くそ、なんやねん・・・)


「おい南、そろそろ休憩やて・・・あ?名字は?」
「土屋を、案内するらしい」
「・・・はあ。取られてもうたんか、情けないのう」


俺の隣でヤレヤレと肩を竦める岸本を軽く睨む。「おお怖っ」と、思ってもないくせに怯えるフリをされて余計に腹立たしかった。




「それで、ええんかいな」


仕方なく一緒にまわることになり、その時たまたま廊下を歩いていた後輩の板倉を捕まえて、三人で適当に店を見ていた。


「何がやねん」
「このまま土屋に好き勝手させてもええんか、って言うてんねん」
「ええも何も・・・名字の勝手やろ」


途中で買ったクレープに夢中な板倉を放って歩き出す。岸本もその後輩を横目で見ながら、何も言いはしなかった。


「ええ加減認めたらどうや」
「認めるって?」


俺が聞き返すと、岸本は周りを気にしてから少し声を抑えて「名字のこと、気になってへんのか」とそう言った。

名字の事は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るし、仲はいい方だと思っている。岸本が言うように最近は彼女を気にしている事が多いのも自覚はしていた。
ただ、それが好きとイコールなのかは、まだ自分の中では分からなかった。


「この機会にいっぺん考えてみたらええんとちゃうか?ま、その間も土屋は待たんと思うけどな」


いつもの嫌味な笑みを浮かべる幼馴染みを視界に入れないようにして、俺は名字のことを思い浮かべていた。

元クラスメイトの吉田に告白されていた名字、岸本の夢を見たという名字、名字に惚れた板倉、そしてついさっきの土屋に腕を引かれる名字・・・そのどれを思い出してもあまりいい気はしなくて。
そしてそれが何なのか、たった今、やっと分かった気がした。


(・・・俺は、嫉妬しとったんか)


岸本に煽られてようやく気付けたというのは癪だったが、胸の内がすっと軽くなった俺は、岸本を振り返って一言おおきにと呟く。
それが何に対しての「ありがとう」なのかをすぐに悟った岸本は、幼い頃から少しも変わらないその顔で嬉しそうに微笑んだ。



「先輩ら何顔合わせて笑てますの?気色悪いわー」

「「・・・板倉ァ」」


俺たちに追いついた後輩のその言葉に、俺と岸本は同じタイミングで拳を振り下ろしていた。



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