南くんのとなり | ナノ
選ぶのは誰?
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「・・・今年もあっついね」
「この日差し、なんとかならんのか」


クラスの応援席で暑さにうなだれているのは私と、南君。
どんどん上がる気温の中、例年通りに行われているのはスポーツの祭典ともいえる体育祭だった。

去年と同じく色んな種目で活躍する南君は、すでに全校女子の視線を独り占めしていた。
それに不満そうなのは岸本君で、曰く「足の速さなら俺の方が勝ってんねんぞ」らしい。


「あ、出てきたよ岸本君」


今から100メートル走に出場する岸本君がこちらに大きく手を振ってるのが分かった。私は笑って返したけど、南君は無視。あいつ見てると余計暑なるわと一言。



「名字ー!見てたか?」
「ちゃんと見てたよ、一着おめでとう」
「岸本、耳元で騒ぐな暑苦しい」
「なんやお前こそ体育祭くらい盛り上がらんかい」
「いつも煩い奴に言われたくないわ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて・・・ね?」


南君とは反対側、私の隣に座った岸本君はクラスメイトの「お疲れさん」という声に答えながら汗を拭っていた。
一年の時より伸びた岸本君の黒髪は肩に届くほどで、この日差しの中では余計に暑そうに見えた。



「次は借りものリレーだって。たしか南君、出るんじゃなかった?」
「・・・そうやったかも」
「おいこら南、絶対一位獲れや!」


岸本君のそれには無視をして、気だるげに立ち上がった南君。頑張って、と応援すると私の方をチラッと見て「・・・ん」と小さく頷いてくれた。
なんやアイツ、と文句を言う岸本君の隣で私は高鳴る心臓を落ち着かせた。


「俺も去年出たけど、そん時は校長やったで」
「あ、覚えてるよ!確か校長先生を抱っこしてゴールしたんだよね?」
「あのオッさんほんま足遅かったんや・・・仕方なくやで」


去年のその光景を思い出して笑う私とは反対に、岸本君はげんなりしていた。

借りものリレーの借りものは毎年様々で、人だったり物だったりする。どんなに足が速くても勝てる訳じゃないのがこの競技だった。

あまり出たくないと言っていた南君は、どうやらジャンケンに負けて無理やり出場が決まったらしい。それでも彼には期待が集まるんだから、注目されるのもなかなか大変だなと私は南君に少し同情した。


「お、南がクジ引いた!なんや?こっち見とるけど」
「もしかして担任とかなのかな?どうしよう、今ここにいないよ?」


リレーがスタートして一番にクジを引いた南君。こちらに向かってものすごい勢いで走ってくる彼に、私や岸本君だけじゃなく、応援席にいるクラスメイト皆が慌て出した。


「・・・名字ッ!来い!」


焦る私と南君の目が合うと、名前が呼ばれて腕を取られた。
「えっ!?」と混乱してる私にお構いなしに走り出した彼に、私はただただ着いて行くしかなくて。

そのままゴールテープまで独走した私たちは、見事一位を獲った。



「はあっ・・・はっ・・・びっくり、した!」
「すまん、な」


ぜーはーと息を切らす私とは対象的に、全然余裕な様子の南君。
少し申し訳なさそうに謝る彼は、私の手を掴んでいた方とは逆の手に持っていた白い紙を見せてくれた。


「同じクラスの人・・・?」
「おん。名字のおかげで一位獲れたわ」


おおきに、と頭を撫でられた私は赤くなる顔をなんとかしようと足早に元の応援席に戻ろうとする。

その時ふと疑問に思って後ろにいる南君を振り返った。


「だったら・・・岸本君か他の男の子を連れてった方が早かったんじゃない、かな?」
「・・・」


そのまま黙って明後日の方を向いた彼に、それでも、咄嗟に自分を選んでくれて嬉しかったよと心の中でひっそりお礼を言った。



「南、お題は何やったん?」
「同じクラス・・・の、女子」
「へえ。それで名字やったんか」


(ふふふ)
(・・・名字、笑わんといて)



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