南くんと夏風邪
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夏休みが明ければ南君に会える。
本当だったら喜ぶところなんだけど、先日見た彼とその隣にいた女の人の事を思い出すとなんだか胸がざわついて、会うのが少し戸惑われた。
だからか、朝いちばんに教室で会った時、「おはよう」と笑ってくれた南君に対して私は曖昧に返すことしか出来なかった。
「名字と近くてラッキーやで」
「どういう意味?」
「他の女子みたいに煩くないやん」
「・・・普通だと、思うけどなあ」
新学期になると恒例の席替えがあって、私は窓側一番後ろの席になった。入学してすぐの頃もここで、その隣には南君がいたんだけど。
「南は一番前やな、日頃の行いや」
くくく、と馬鹿にしたように笑う岸本君は私のひとつ前の席だった。椅子を横向きにして私と話す彼は、夏休み前に比べて随分と肌が焼けていた。
「なんや名字、今日は体調でも悪いんか?夏バテ?」
「ううん、そんなことないよ」
「そうか?」
少しぼうっとしてたからだろうか。そう言ってじっと私の目を見る岸本君に、笑ってその場をごまかした。
「名字、顔色良くないで。ホンマに何ともないんか」
「・・・え?」
全部の授業が終わって、岸本君が心配そうな表情で私を覗き込んだ。確かに、頭が重くて寒気を感じる気がした。
「ん、大丈夫だと思ってたんだけど・・・風邪かな」
「夏風邪はやっかいやでぇ。一人で帰れるか?」
うん、と答えて鞄を肩にかける。
送ろうかと気遣ってくれる岸本君に首を振ると後ろから伸びた手にそれを止められる。驚く私を他所に、その手は軽くおでこに触れられた。
「これ、熱あるんちゃうか」
「南君・・・」
振り向くとすぐ近く南君がにいて、その眉間にはシワが寄っていた。
「朝から様子おかしい思っててん」
「せやろ。無理すんなや名字」
「・・・そう、だね。帰って安静にします」
「いや・・・俺が送るわ」
今日は部活ないねん、そう言うと私の鞄を取り上げた南君。彼を見上げると、小さく笑った瞳と目が合った。
「ごめんね」
「名字・・・ちゃんとあったかくして寝るんやで」
「うん」
帰り道、何度も言われるそれに私はできる限り笑って答えた。
「・・・あと、な」
家の前に着くと、南君が何か言いたげに私を見た。少し気まずくて、でも、やっぱり私の心臓はドキドキと高鳴った。それと同時に今までより顔がアツくなってる気がした。
(う、熱、上がったかも・・・)
早く家に入ってしまいたいのを抑えて南君を待っていると、彼は「やっぱええわ」と視線を逸らして、そのまま私に背を向けてしまった。
「・・・じゃあ、お大事に」
なんだか歯切れの悪い様子に戸惑うも、結局寒気には勝てずに部屋に急いだ。
(南君、どうしたんだろう・・・)
ベッドで悶々と考えていたけど、よく分からないままいつの間にか私は眠りについた。