南くんと女の人
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バスケ部が今年もベスト8だったと友人から聞いたのは、夏休みが終わる少し前だった。
大阪に帰ってすぐ、友人と待ち合わせてお土産を渡した時にそう教えてもらった。
南君も岸本君も今年こそはベスト4になるって言っていたけど、やっぱりそう簡単な事ではないんだなと二人の顔を思い浮かべていた。
「ほんで、なんか南が怪我したらしいで?」
「・・・えっ」
それを聞いた途端、心臓が一瞬止まったような気がした。
バスケは接触が多いスポーツだし、大事になってないか心配で私は途端に落ち着きがなくなった。
「南君・・・大丈夫なのかな・・・」
「それより相手の方がヒドイって言ってた様な気もすんなあ・・・」
「どっちも、心配だね」
「名前、岸本にでも聞いてみたら?」
電話番号知ってんねやろ?と言う友人に私は小さく首を振った。
「私が・・・何というか、でしゃばるのもどうかと思うの」
「・・・そっか。そうやな」
「うん」
「じゃ、買い物行こう」
駅前に新しくできた大型のショッピングモールを友人と並んで歩く。たくさんのお店があって、私はあちこちに目移りしていた。
「涼しいし綺麗だし、ここに来て正解だったね」
フードコートで飲み物を買ってひと休みしながら、次はどこに行こうかと相談する。
私が欲しかった物は買い終えたから、今度は友人の服をみることにした。なんでも、もっと女の子らしい格好をしなさいとお母さんに言われたらしい。
いつもパンツスタイルを好む友人は「ほんまうるさいねん・・・うちのお母さん」と言い、その表情はどこか憂うつそうに見えなくもなかった。
「でも、ちゃんとお小遣いくれたんだよね?」
「スカート買えってな」
「ふふ。私も一緒に選ぶよ」
「・・・任せたで」
これがいいあれがいいなんて友人の服を選んでいると、視界の端で見知った人を見つけた気がした。どうしてかは分からなかったけど、一瞬のそれに私は友人を残して慌ててお店を出た。
「・・・南君、だ」
少し遠くを歩いているのは見間違えるはずもない南君と、彼の影で顔は見えないけど隣には確かに、女の人の姿があった。
「・・・名前、どうしたん」
私の後を追ってきた友人に話しかけられるまで、私はその場から動けないでいた。
首を傾げて不思議そうにこちらを見る彼女には、「なんでもないよ」と先ほど見た光景のことは言わなかった。
「・・・さっき、可愛いスカート見つけたんだ。似合うと思うんだけど、どうかな」
私は動揺したのがバレないように、友人の背を押してさっきのお店に戻った。
南君が私服で誰かと一緒に歩いていた、まるでデートみたいなその光景を私自身が認めたくなかっただけなのかもしれない。
(彼女・・・なのかな)
(仲が良さそう、だった)