神奈川から今晩は
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いよいよ夏休み直前になって、暑さも本格的になってきていた。それは夜になっても続いていて。
最近になって我が家でもクーラーを付けるようになり、快適なリビングのソファで私は一人のんびりとしていた。
今夜は、共働きの両親は二人とも帰りが遅くなるらしい。寂しいとは思うけれど、そのおかげでご飯を食べられて学校にも行かせてもらってるんだから。
それくらいは仕方がないと幼い頃から割り切っていた。
(それにもう、高校生だしね)
お風呂を済ませてリビングに戻ってくると、同じタイミングで電話が鳴った。驚いて一瞬ビクッと肩があがる。
「はい、もしもし」
『・・・名前さん?」
電話の向こうから聞こえた声には覚えがあった。
「うんそうだよ。水戸くんだよね?」
「よく分かったね」
「そっちこそ」
ははっ、と笑う水戸君は相変わらず気さくなようで。久しぶり、とお互いの声が重なって私はクスリと小さく笑った。
去年、海の家で一緒にバイトをしたことがひどく懐かしく感じられた。
『こっちはもう夏休みでさ』
「そうなんだ。中学はちょっと早いんだね」
すでに夏休みを満喫しているのか、なんとなく、水戸君の声からは楽しさが滲んでいる気がした。
「それで、水戸君の用はなんだったの?」
近況報告も手短かに、私は水戸君にそう聞いた。
「用がなかったら電話しちゃダメだった?」と苦笑している様子の彼にそんなことはないけどと返す。中学生らしからない所は相変わらずで、それは年上の心をしっかり掴んで離さないような台詞だった。
『今年はこっち来ねえのかと思って』
気になってたと続ける彼に、今年も神奈川に帰る事を伝える。
『じゃあまた会えるな。どう?今年も海の家やらない?』
「うーん・・・去年が大変だったからな」
『しっかりやれてたって』
「水戸君がフォローしてくれたからだけどね。店長さんが良いって言うなら、今年もやろうかな?また助けてね」
『もちろんそのつもり』
「行く日が決まったらまた連絡するね」
『ああ、待ってるよ』
お互いにおやすみ、と言って通話を切った。
去年に経験したあの混み具合を思い出すと少しげんなりするけど、水戸君に会えると思うと神奈川に帰るのがとても楽しみになって、自然と頬が緩んでいた。
はやく夏休みにならないだろうか。