南くんのとなり | ナノ
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「ふぅ・・・」


人混みに疲れて体育館を出た私は、校舎近くの日陰になったベンチに一人で腰掛けていた。
練習試合でこんなに盛り上がるなら、試合はもっと凄いのかと想像しただけでその熱気に飲み込まれるような気がした。


「こんなところにおったん」


ヒヤリ、と頬に何かが当たり、驚いて立ち上がった私。それを笑いながら隣に座ったのは、練習試合に誘ってくれた土屋君だった。

堪忍やで、と言いながら二つ持っていた缶のポカリのうち一つを渡された。さっき頬に当てられたのはコレかと小さく彼を睨むが、そんなものどこ吹く風と、額に流れる汗を肩にかけたタオルで拭っていた。
ポカリのお礼をしてから「試合おつかれさま」と労いの言葉をかける。

抜けていいのかと聞くと、彼のチームは休憩中で今は自由なのだと教えてくれた。そういえば、体育館の周りで休憩している各校の選手がちらほらと見える。


「見応えあるゲームばっかりやろ?」
「うん。誘ってくれてありがとうね」
「その割には応援は豊玉一筋みたいやね。僕も頑張ったんやけどなぁ」


はあ、と大袈裟にため息をついた土屋君。私はあの多勢の観客の中から見つけられていたことに驚いた。


「よく場所が分かったね?」
「まあ、偶然やけどね」


すっと目を逸らすと、そう言って誤魔化すようにゴクリとポカリを飲んだ様に見えた。私も特には気にせず、貰ったポカリに口をつける。
(冷たくて、おいしい)

それからは他愛ない話をした。


「実は土屋君のプレーを見るの初めてじゃないんだ」
「そう、なん?」
「中学の時にね、一回だけ試合を観に行ったことがあるの」
「・・・知らんかったわ」


土屋君のことを好きだった時、友人に頼んで一度だけ一緒に観に行った事を思い出す。その時もすごく上手いと思ってたけど、今日はあの時よりさらに上手くなっているのが分かって嬉しかった。
それに今は格好良さも上がっている気がした。現に、隣にいた女の子たちは土屋君にも夢中だったし。



「そろそろ休憩も終わりなんじゃない?」


体育館に戻る大栄の人を見て土屋君に言うと彼はそうやな、と言ってすっと立ち上がった。


「頑張ってね」
「まだ観ていくやろ?」
「うん、そのつもり」
「次は僕も応援してな。南君ばっかり見てんと」
「・・・え?」
「ほな」


そのまま固まる私を置いて戻って行った土屋君。南君ばっかり見てないで、そう言われてしまった。彼は私の目が常に南君を追っていた事に気づいていたのか。


(う、わあ・・・)


自分の顔が体育館にいた時よりも熱く火照って、真っ赤になっているのが見えなくても分かる。
恥ずかしい、と思った。本当に恥ずかしい。



「あれ、南君・・・出てない」


やっと顔の赤みも治まって体育館に戻ったけど、南君は試合には出ていなくて。たまに目が合う土屋君に小さく手を振りつつベンチの方まで見ると、南君はタオルを被って座っていて、たぶん、ついさっきまでプレーしてたんだと思う。
南君、格好良かったね。近くの女の子の口からそう聞こえる度に私の気分は沈んでいき、胸の中はずっとモヤモヤとしていた。
私も、南君を見たかった。


そのまま、3校が整列して挨拶しているところを見るとこれで今日の合同練習試合は終わりらしかった。




(土屋君のせいだ・・・)


練習試合を観れたのはもちろん楽しかったのだけど。南君のプレーを近くで見るのは当分お預けなのかと、私は家に帰ってからもしばらく落ち込んだ。


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