落とし主は
( 27/78 )
朝に雨が降り始めて、昼頃にはザーザーと強くなっていた。いつの間にか季節は梅雨入りして、今年も湿気に悩む時期になっていた。
(・・・今日は特に酷いかも、この癖っ毛)
自由に跳ねる髪をくるくると指に巻きつけては解く。昼休みに私は図書室から窓の外を見ていた。
「2週間後が返却期日です。忘れないでくださいね」
営業スマイルとでも言うのか、新しい学年になり図書委員に選ばれたので、それなりに真面目に当番をこなしていた。といっても、図書委員は担任に半ば無理やり押し付けられたのだけれど。
「あ、」
本の貸し出しと返却作業を終えて後は戸締りをするだけという時、最後に図書室を出ようとしていた男の子の足元に何かが落ちたのが見えた。
気づいてないのか、その男の子はどんどん図書室から遠のいてった。
それを慌てて拾うと急いで戸締りをして、見失わないように追いかける。拾ったのは生徒手帳だった。
早足のその人に着いて行くのは結構大変で、あっという間に一年生の階まで来ていた。
「あの、待って!」
「・・・なんや?」
ちょっと息を切らせながら声をかけること数回、ようやく足を止めてくれた。
振り向いた男の子は南君程ではないけど大きくて、話そうとしたら見上げなくちゃいけなかった。
(・・・私の周りに大きい人、多くない?)
ガタイもよくて、一瞬怯んだもののすぐに気を取り直して、さっき拾った生徒手帳を差し出した。
「これ図書室で落としましたよ」
「・・・ほんまや」
「どうもおおきに」と言って受け取ってからこちらを見下ろす男の子。少しの間見つめ合い、変な沈黙があって気まずくなった私はとりあえず必殺・図書委員スマイルをだした。
・・・自分で名付けといてなんだけど、酷いネーミングセンスだ。
「・・・っ」
男の子が驚いたような顔をしていたけれど気にせず、とにかく曖昧に笑ってさっさと退散することにした。
「・・・じゃあこれで」
「あ、えっと」
「何か?」
去り際に呼び止められて振り返ったけど、彼は口をパクパクさせるだけで何も言うことは無かった。
(なんか、顔が赤いみたいだけど・・・)
「授業が始まっちゃうから、行きますね」
「は、い」
図書室の鍵を職員室に返してから自分の教室に戻った頃には、ちょうど授業開始のチャイムが鳴っていた。
席について、階段を往復したせいで上がった息を整えながら、私は良い事をしたんじゃないかと少し満足していた。
私が去った後に、さっきの男の子が頬を染めて「惚れてもうた・・・」と呟いていたことなんて、浮かれている私は知る由もなかった。
(なんて優しい人や、まさに天使やで)
「はっくし!」
ただ、悪寒というか、なんだか肌寒いような気配だけは感じていた。