南くんのとなり | ナノ
邂逅する
( 21/78 )


バレンタインの余韻が残る街並みをバスに揺られながら眺める。
今朝、家を出る前に母から大阪駅に新しくできたケーキ屋さんが人気らしいよと言外にお使いを仄めかされ、ついでに買い物でもしようかと学校帰りに向かっている所だった。



ちょうど空いてる時間だったのか、私が人気のケーキ屋さんを覗いた時には店内は落ち着いていて、ゆっくりと商品を見て回ることが出来た。


(ショートケーキ・・・わ、チーズケーキも美味しそう!チョコも捨てがたいけど・・・一番人気は、)

ケーキが並ぶショーケースの前でうんうん唸ってる私に、店員のお姉さんからは暖かい微笑みを送られていた。なにせ、種類が多くてその上、全部が美味しそうなのだ。甘いもの好きの私は目移りばかりして、なかなかどれを買うか決められないでいた。



「ここはフルーツタルト一択やで」
「・・・っ!」


突然、隣から聞こえた声に肩がビクッとなる。かなり近い距離から聞こえた低音は、久しぶりに聞く声だった。


「土屋君!驚かさないでよっ」
「はは、ごめん。店の前で名字を見つけたもんやから、声かけようと思ってん」


そう言って隣でニコニコしている土屋君。確か前に会ったのは半年以上前だったような。相変わらず爽やかで、元気そうに見えた。
以前にここのケーキを食べたという彼に勧められるままにフルーツタルトを買って、二人でお店を出た。



「土屋君、部活はどう?」
「調子ええよ。怪我もないし」


こないだの冬の選抜予選で豊玉に負けてんけどな、とこちらを見る彼に私は曖昧に笑って返す。思い浮かべたのは南君の顔だった。
背が高い彼を見上げていると、南君と話しているような感覚になった私は、二人はどこか似ているところがあるかもしれないな、と考える。



最寄りの駅が近いから家まで送る、との申し出に最初は遠慮していたけれど、もう少し話したいと言われれば大人しく隣で歩くしかなかった。


「もう真っ暗だね」
「名字は気つけなアカンで?女の子なんやから」


話が途切れないように話題をふってくれるし、道路ではさりげなく安全な方に寄せてくれたりして、昔と変わらずスマートだ、と感心する。彼の場合、誰に対しても紳士的でそういうところがモテるんだろうなあとしみじみと思った。




「名字・・・と、土屋?」


私の家に近づいて、もうここでいいよと土屋君にお礼を言ってる時。自転車が横を通ったと思ったら、急に止まって声をかけられる。
驚いてる私を他所に「南君やん。部活帰りか?」と土屋君が気さくに話しかけていた。


「二人は知り合いなの?」
「いや、顔は知っとったけど・・・」
「話したんは初めてやね。僕の先輩が南君の事褒めとったよ。上手い一年やって」
「それならうちの先輩もお前のこと上手いて言うてたで」
「次やる時は、負けへんよ」


ほなまた、そう言って私に向き直り、小さく微笑んでからくるりと背を向けた。すぐにその姿は暗がりに消えて、残ったのは私と南君。
少し前ほどじゃないけど、途端にドキドキしてきた。


「部活おつかれさま?」
「おう。名字は土屋と・・・デートか?」


私を見下ろしてそう聞く南君の声色には、少しの驚きが見えたような気がした。


「ち、違うよ!買い物してたら偶然会っただけで・・・」
「もともと知り合いってか」
「中学が同じだったの」


ふーん、と納得したのかしてないのか分からないけどとにかく頷いた彼はそのまま自転車に乗って、じゃあ俺も帰るわと片手を上げた。
自転車を漕ぐ彼の後ろ姿に手を振り、しばらくして家に入る。



「遅かったわね」


リビングに寄って買っていたケーキの箱を開けるとすっかりドライアイスが溶けていて。母に友達と会ってたからと説明して、そのまま部屋に戻った。後ろでフルーツタルトを絶賛する声が聞こえてきて、土屋君は流石だなと小さく笑った。



PREVNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -