隣の席のひと
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カーテンの隙間から差す朝日が眩しくて、ゆっくりと目を覚ました。ふと視線をやった目覚まし時計は、どうやら無意識のうちに止めてたみたいで。慌てて服を着替えて、急いで顔を洗って、もたつきながら靴を履く。
「あー、遅刻っ!」
勢いよく開けて飛び出した玄関の奥から、母が眠たそうに「いってらっしゃい」と言う声が聞こえてきた。
それを背に受けて私はひたすら走る。
とにかく、走る。
(・・・朝ご飯、食べ損ねた)
「・・・お、おはよう」
ぜーはーと息を切らしながら教室へ飛び込めば、友人が呆れた顔を向けてきた。
彼女とは中学から友達だったため今では親友のポジションを得ている。
(同じ高校でよかった・・・)
「入学して早々遅刻してんのなんか名前くらいなんちゃう?たぶん」
「あはは・・・」
返す言葉もない私は、苦笑いするしかない。
席に着くとちょうど同時くらいに担任の先生が教室に入ってきた。
どうでもいい話をする担任に耳を傾けつつ、私は今日も窓の外を眺めることにした。
くあ、とひとつあくびが出る。
「ちゅーワケで、席替えすんぞー」
「えっ・・・」
何も考えずに空を見ていたら、急に席替えという単語が耳に入ってきた。出席番号順に並んでいた今の自分の席は、一番窓際の最後列。誰が席替えなんかで喜ぶものか。
たとえそれが学生のドキドキイベントだろうと私にとっては嬉しくもなんともないのに。
「いろんな奴と仲良うなれやー」
なんて間延びした声で言うその教師には心の中で悪態をついておいた。
前の席の人から順にクジを回していく。半ばヤケになって、紙きれの中から適当に一枚を引いた。
私はこういうクジ引きではいつも運に見放される事が多いから、せめて一列目はやめて、と切に願った。
「14番、は・・・あれ?」
自分の引いた番号と前の黒板とを頻りに見比べる。一瞬間違いかもと思ったけど、冷静になって見てみても、どうやら間違ってはいないらしい。
「前と同じ席だ・・・」
「へえ、ツイてるやん」
「・・・ん?」
喜びも束の間、隣の席に移動してきた男の子が話しかけてきた。ちょっと背が高くて、ちょっと目付きが悪くて、それでいて初めて喋った子。・・・カリメロに似てると思った。
「お隣さんだね、よろしく」
「おう俺、南」
「名字です」
「名字、な。ノート見せてくれると助かるんやけど。俺、あんま起きてへんから」
そう言ってにっ、と笑った南君はとても爽やかで少しドキッとした。カリメロに似てるとか言ってごめんなさい。彼は正真正銘のイケメンでした。
そのまま担任と入れ替わりで1時間目の先生が来て、退屈な授業が始まる。
「ぐー」
終始寝てすごしていた彼を見て、私はこっそりと笑った。
「仕方ないなあ」
私は爆睡する彼のために律儀にもノートを取るのに勤しんだ。心なしかいつもよりも上手く字がかけた気がする。
新しい席はなんだか楽しくなりそうな、そんな予感がした。