隣の席の女の子
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暑い暑いといいながら毎日を過ごすうちに季節は少しずつ変わっていて。最近では日が落ちるのがずいぶんと早くなっているような気がした。
楽しかった体育祭や文化祭を振り返る間もなく、私たちには期末試験が近づいていた。
(また試験か・・・)
「はよ、名字」
「おはよう」
声の方を振り返ると、朝練を終えた南君がちょうど席につくところだった。うん、今日も爽やかでイケメン。
「俺・・・今回も英語やばい気するわ」
「はは、相変わらずだね」
「永遠の課題やろな」
私もやっぱり数学が、なんて苦笑いしてから、南君と二人して深いため息をついた。
「あのね、南君」
「ん?」
「良かったら・・・」
「南君、英語苦手なん?」
前みたいに一緒に勉強しませんか?そう続けるはずだった言葉は、すぐ隣から聞こえてきた声で口に出すことは叶わなかった。
言ったのはもちろん私ではなくて、南君の隣の席、うちのクラスで可愛いと人気の女の子。
まあな、と南君が一拍置いて返すと、彼女は閃いたとでもいうようにパチッと手を叩いて身を乗り出した。
「私、英語得意やから教えるよ?」
彼女がそう言った時、なんでか胸のあたりがザワリとした。私はぼうっと二人の会話を眺める。
「あー・・・なんとかなるから」
どこか困ったように頭を掻いてこちらを見た南君と目が合ったけど、私はなんて言えばいいのか分からなくて。ただ漠然と、このまま彼にイエスとは言って欲しくないと思った。
「せっかく隣の席なんやし、遠慮せんでええよ?」
南君は私からその子に目線を移すと「・・・じゃあ、頼むわ」ぼそりと一言そう言った。
それからテスト当日まで、後ろの席で二人が顔を付き合わせて勉強しているのを私はただ見るだけで。なんだか前より南君が遠くなってしまったように思えた。
(私もしかして、寂しい、のかな)