夜の電話
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海の家のバイトを終えた頃には、すでに8月の半ばを過ぎていた。連日の混み具合と忙しさに、ちょっと海を嫌いかけたのはまだ記憶に新しかった。
(当分、海はいいや)
居間のソファにだらりともたれながら、夏休みも残すところあと少しということに落ち込みつつ、ふと友人の事を思い出す。
明日には家族そろって大阪に帰るから、久しぶりに会いたいなと思った。
「・・・あ、電話」
そんな時にかかってきた電話は、ちょうど会いたいと思っていた親友からで。離れていても意思疎通ができてるみたいでなんだか嬉しい。
『もしもし名前?』
その声を聞くと、なんだかホッとしてへなへなと体の力が抜けてしまった。
「元気だった?」
『まあそれなりやなー』
「そっちは毎日部活だもんね」
『せやねん。暑いしほんま疲れるわ』
「神奈川も暑いよー」
やっぱり気の置けない友達とは良いもので、お互いの近況を報告し合っているとあっという間に日付が変わっていた。
『そういやさ、』
「うん?」
『バスケ部、インターハイ終わったみたいやで』
バスケ部、と聞いて一番に浮かんだのは隣の席の南君だった。いつも眠たそうにしてる彼は、この暑い夏もバスケに勤しんでたんだろうな。
「南君は試合出たのかな」
『さあ、それは分からんけど。ベスト8やって』
「わ!すごいね」
たしか、去年もベスト8だったって南君に聞いたような気がする。インターハイに出場するだけでも凄いことだけど、彼のことだからきっと満足はしてないんじゃないかな。
まだ友達になってから短い付き合いだけど、そんな気がする。
『・・・名前?』
「あ、ごめん」
『眠いんやろ?うちもそろそろ寝るわ』
「うん。明日には帰るから、また連絡するね」
考え事をしてたら、ついつい無言になってたらしい。眠たい訳じゃなかったけど、彼女は明日も朝から部活なので、おやすみと言って切ることにした。
荷物をまとめて帰る準備をしてから、私も寝ようと布団に入った。気づいたらもうどっぷりと夜中だった。
「そういや、お土産どうしようかな」
友人には食べ物でいいとして(彼女は食にうるさかったりする)、せっかくだから南君にも何か買おうか。
「南君も、食べ物がいいかな・・・」
神奈川の美味しいものを思い浮かべていると段々お腹が減ってきたから、慌てて何も考えないようにして寝ることにした。
(やっぱり)
(鳩サブレーか月餅の二択かな・・・)