南くんのとなり | ナノ
年下の男の子
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二階にある部屋の窓を開くと、そよそよと吹く海風が私の髪をすくう。太陽の光が反射する水面をみていると、とても家でじっとしている事なんて出来なかった。


「ちょっと海行ってくるね!」


そう言って、さっき着いたばかりの父の実家を飛び出した。移動に疲れて居間で休んでいた両親は「元気だねぇ」と少し呆れたような視線を、祖父母はニコニコと楽しげな暖かい視線をくれた。



「う、わぁ・・・やっぱ気持ちいい」


サンダルをそこらに放って、私はひとり海辺をぴちゃぴちゃと歩く。



「お?見ない顔だよな」


振り向くとさっきまでは誰もいなかったそこには黒髪の男の子がいた。自転車に跨って、少し離れた道路からこっちを見ているみたい。


「・・・地元の方ですか?」
「そうそう。すぐそこの学校通ってんだ。あんたは?」


とても人のいい笑みを浮かべて歩いてきた彼は近くで見ると思ったよりもかっこよくて、少しやんちゃそうでもあった。

(リーゼント・・・初めて見た!)


「名字っていいます。夏休みだから帰省してて・・・」
「へえ?俺は水戸ってんだ。見たとこ同い年くらいだと思うんだけど」
「高校一年です」
「あれ、二つも上なんだ。失礼なこと言ったかな?」
「ふふ、そんなことないですよ」


困ったように眉を下げる姿はなんだか年相応で可愛く見えた。それでも、二つも下ってことにはちょっと驚きを隠せない。

(そっか、中二か・・・見えない)


「名字さんのが年上だし敬語とか使わなくていいよ」
「わかった。水戸くんも気にしないでね」
「助かるよ」


俺、そういうの苦手なんだ。そう言って優しげに微笑む姿が一瞬だけど南君と重なって見えた・・・気がする。


「水戸くんは、学校帰り?」
「いんや」


制服を着てるからてっきり学校帰りかと思ったけどそうじゃないらしい。私がハテナを浮かべていると、いたずらっ子みたいに笑った。彼はよく笑うし、親しみやすさがあるからなんだかとても落ち着く。


「学校にも行ったんだけど、その後海の家でバイトしてたんだ」
「え、バイト?」
「そう。あっちの、海水浴場でいっぱい店出てるんだぜ?」
「へえ・・・」


中学生でバイトなんて偉いなと思う。それと、人は見かけによらないんだなと彼を見て考えていた。


「興味ある?」
「えっ?」
「ちょうど女の子が一人辞めちゃったとこなんだ」


夏休み暇なら手伝わない?と続ける彼に、その時は何も考えずに首を縦に振っていた。


「ほんとに?すっげー助かる!」


私が頷いたのを見て水戸くんは喜んでくれてるみたいで、私の手をとると勢いよく握った。


「でも、私、バイト経験とかないんだけど・・・勝手に決めちゃって大丈夫?」
「大丈夫だって!今ほんとに忙しくてさ、店長もバイト探してるとこなんだよ」


忙しくてそれどころじゃないんだけど、と言って溜息をつく所を見ると、海の家の大変さが少しだけ分かる気がする。


「下の名前はなんてーの?」
「あ、名前だよ」
「名前さんか。いい名前だね」
「っ・・・う、うん。ありがとう」


さらっとそんなことを言われて、慣れない私は照れるしかない。
これで2つも年下だなんて、まったく都会の男の子は皆こうなのだろうか。末恐ろしい。
ちょっと不良っぽいけど見た目も整っているし、学校ではモテるんだろうなあと普段の彼を少し想像した。



「じゃあ、明日ここに迎えにくるから一緒に行こうか」
「なんか緊張するなぁ・・・」
「はは。たぶんそんな余裕もなくなると思うよ。昼間なんて休む暇もないから」
「うぅ・・・」


今更ながらこんなに簡単に引き受けてしまって良いものかと不安が押し寄せてきた。もともとこういうプレッシャーには弱かったりする。

(・・・ヘタレとは、言うなかれ)



「大丈夫だって。俺もフォローするし、注文とって料理運ぶのがほとんどだしさ」
「うん、足引っ張らないように頑張るね」


じゃあ明日からよろしく、と言ってからそれぞれの帰路に分かれた。家に着いてすぐにアルバイトの事を母に伝えると、頑張ってきなさいとオーケーを貰えてとりあえず一安心。

その後は、ご飯を食べてゆっくりお風呂に入って。明日に備えて早めに寝ることにした。




(水戸くん水戸くん!)
(なんかあった?)
(違うの、ただ、海の家ってこんなに体力使うんだね)
(まあね。はい、コレあっちのテーブルによろしく)
(はーい!)



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