南くんと日直
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「よっ・・・!も、ちょい」
「はは。名字がんばれ」
「うん・・・って、南君!」
日直という仕事は座席順にまわってくるのだけど、今週はちょうど私と隣の席の南君がそれに当たっていた。
めいっぱい背伸びして手を伸ばしても、私の身長じゃ黒板の上の方には届かない。それを横で楽しそうに見ている南君。
「南君、見てないで手伝ってよ?」
「そやなー。届きそうにないし」
「(む・・・)私、別に小さいわけじゃないからね!普通だから!」
私が少しむきになって言い返すと、「悪い悪い」と言って私の手から黒板消しをとった。
周りと比べると頭一つ分は高いだろう身長の彼は、それはもう楽々と板書の残りを消していく。
「背が高いって、いいね」
「どうやろな。ま、損はないやろうけど」
嫌みを含んでいたのに、それを気にせずにさらりと返される。
「・・・言うてバスケ部ん中やったら小さい方なんやで?」
そのまま言い放った彼の言葉に私は驚いた。南君はたぶん、180センチくらいあるのに、それでも小さい方?他の人がそれよりデカいってことは・・・うん、首が疲れそうだよね。話すとき見上げるから。
「そういや、そのバスケ部は今日は練習ないの?」
今はもう放課後で、いつもだったら彼はそそくさと部活に行っているはずだ。日直だからといって練習時間を減らしたりするのは彼の本意ではないと思う。
「ああ、今日は休みやねん」
「へえ?珍しいね」
「テスト期間もずっと練習やったからな。もう夏休みも始まるし。久しぶりの休養ってわけや」
「そっか・・・せっかくの休みに日直なんて、ついてないね」
最後の日誌を書きながら相槌をうつ。
南君は私の前の席の椅子をこちらに向けて、後ろ向きで座ってた。
「せやなー・・・まあ帰っても寝るだけやから、大差ないけど」
「ふふ、想像できるかも」
「俺いつも名字の横で寝とるもんな」
「だね。先生がこっち向いてる時、けっこうヒヤヒヤしてるんだよ」
そんな他愛もない話をしているうちに、日誌も最後のメッセージを書くだけとなった。私は自分の欄に、今日も一日おだやかでした、と無難な文を書いてからそれを南君に渡した。
「はいこれ、南君もメッセージ書いてね」
彼が書き終わるまでに私は帰り支度をする。といっても、鞄に教科書を入れるだけだから大して時間はかからなかった。
「おし、出来たで。ちょっと待ってて」
「うん」
彼が私と同じように帰り仕度している間に、さっき書いてもらったメッセージをこっそり見てみる。
『名字と日直たのしかった』少し癖のある字でかかれたそれを見て、私はなんだか嬉しくなって。顔ニヤけとるで、と南君に言われるまで頬は緩みっぱなしだった。
学期最後にめんどくさい日直だなんて、と思ってたけど、南君とだと楽しくて。とても軽い足取りで職員室に日誌を提出しに行った。
そして、豊玉高校は夏休みに入った。