年下の女の子 | ナノ
成長してるんです

「おい、名前」

「うっ・・・うく・・・っ」

「負けたくらいで泣くなって」



ミニバスの県大会。キャプテンとして出場していた近所の女の子を応援しに俺は試合会場の体育館まで足を運んでいた。
昔っから俺の後ろばっかり追いかけてくるその子は、男勝りの負けず嫌いで、でも笑った顔が可愛い自慢の妹だった。


(・・・血は繋がってないけど。そういう存在ってこと)



県大会の決勝戦まで勝ち残ったと連絡を受けたのが昨日のことで、電話越しに「健ちゃんに見てほしい」と言われれば、名前を可愛がってる俺は断ることなんて出来なくて。
ちょうど体育館の改修工事とやらで部活がオフだったのを幸いに思いながら、今日を迎えた。



「いいぞ名前!」


試合はミニバスといえどもかなり白熱していた。まだまだ小学生の荒々しさが目立ってはいたけど俺はすっかりのめり込み、他のちびっ子たちや保護者に紛れて名前の応援に熱くなった。



ブザーが鳴ったのは、名前がシュートを放つ少し前だった。
1点ビハインドのラスト1秒、そのシュートは結果としてゴールを通り抜けはしたけど、審判はノーカウントを唱えた。

名前のチームが負け、惜しくも優勝を逃した。試合の後、表彰式を終えて帰り支度をすませた今も名前は俺の腹にしがみ付いて泣いている。
それを心配そうに見ていたチームメイトの小学生たちや保護者のお母さんたちには先に帰ってもらった。
仕事で応援に来れなかった名前の両親の代わりとして「俺が家まで送りますから」と言えば、誰も何も言いはしなかった。


(自慢じゃねーけど、俺は保護者ウケするほうだ。特に母親には)




「ほら、もう帰るぞ」


いい加減、くっつかれてる腹まわりが名前の涙で冷たくなってきていた。どれだけ泣くんだと半分呆れながら、まあ俺も負けたときの気持ちが分からなくないので邪険にもできないなと思う。

その頃には体育館のロビーにほとんど人影はなく、たまに通りすぎる管理人に不思議な顔を向けられるくらいで、俺はそれに軽く会釈をしていた。



「健ちゃん」

「・・・ん?」


それから少ししてやっと泣き止んだ名前は、真っ赤に腫らした目で俺を見上げて小さく口を開いた。
俺よりもだいぶ低い位置にある頭を撫でながら彼女が何を言うのかと待つ。



「わたし、中学で全国いく」


真剣な顔でそう言いきった名前に俺は「よく言ったな」ともう一度彼女の髪を撫でてやり、その小さな手を取った。
幼い頃から近くにいた存在がこんなにも成長していると知り、嬉しいやら少し寂しいやらで俺は苦笑した。




「・・・名前」


帰り道をふたり歩きながら、名前の名を呼ぶ。


「なあに?」


さっきまでの大泣きが嘘みたいに清々しい笑顔で俺を見る。


「・・・お前さ、ずっと鼻たれてるぜ」

「うそぉっ!?」

「そんなんじゃ嫁の貰い手が無くなるぞー」

「む・・・!」


良く伸びる頬を軽くつねりながら言うと、意外にもされるがままの名前。言い返さないのかと不思議に思っていれば、ぺち、と手を叩かれた。


「ぜったい健ちゃんより男前の人、捕まえるもん」

「は?いるわけないね」

「いるよ!」

「へぇ?じゃあ楽しみにしとく」

「中学入ったらすぐだからね!」

「・・・あっそー」


名前をからかうつもりが、思わぬ反撃に頭を軽く殴られたような衝撃が走った。この流れはアレじゃないのか、仕方ないから俺が貰ってやるよの流れなんじゃないのか?と、頭の中でぐちゃぐちゃと考える。


(昔は「健ちゃんのお嫁さんになる!」が口癖だったのになァ・・・)


本当に、名前が中学に入って彼氏を連れて来たらなんて想像してみると、それだけで胸やけのような何とも言えない気持ちになった。



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