年下の女の子 | ナノ
けんか上等!

夕暮れ時、学校から家に帰る途中、近所の公園で見知った後ろ姿を見つけて足を止めた。

正座をしたガキ三人と、その向かいで仁王立ちしていたのは間違えるはずもない、小学生の俺の妹だった。それ以外に人影はない。



「ごめんなさい、は?」

「「「う・・・ごめんなさいぃぃ」」」


べそをかきながら謝る三人に満足気な顔をして頷く妹。近くに寄ると、振り返って俺を見つけるなり勢いよくしがみ付いてきた。


「お兄ちゃんっ!」


にこにこ笑ってる名前の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。ペットのようなその反応につい口元が緩む。
・・・何を隠そう、俺はかなりのシスコンだ。


「今日は帰るのはやいねっ?」
「まあな」


ふと横に視線をやれば、俺の登場にこれでもかと目を丸くしてる少年たち。その怯えた表情に俺は「まいったな」と手を頭の後ろにやった。
・・・まあ、誰から見ても俺は不良そのものだし、怖がられるのは仕方ねぇけど。

大体予想はつくものの「何してたんだ」と名前に聞いてみれば、クラスの女の子をいじめるこの悪ガキたちを懲らしめていたと言う。それも一人で。


俺の腕を掴んだままそいつらに向き直る名前。


「あんたたち、もう帰っていいよ。次やったら許さないからね!」


「もっもうしねーよ!」

「ばーかばーか!ゴリラ女!」

「暴力女ーっ!覚えてろよ」


ふらつきながら立ち上がると、それぞれ好き勝手言ってから走ってった三人。反省してるんだかしてないんだか。

それをけたけた笑いながら眺める名前の手を引いて、俺たちも公園を出た。



「あんまケンカとかするなよ」

「む・・・お兄ちゃんに言われたくなぁい」

「あー・・・まあ、人のこと言えないけどな。名前は女の子なんだからさ」

「ダイジョーブ。クラスの男の子みんな弱っちょろいもん。それに、わたし強いからっ」

「・・・ったく」


俺が何を言ってもへらへらしてて、まったくこの喧嘩バカは誰に似たんだと溜め息をついた。ついでに、弱っちょろいと評されたクラスの男たちには少し同情する。


(・・・名前相手じゃ悪ガキも形無しだな)




もうすぐそこに家が見えた頃。


「・・・でもまあ」

「んー?」


俺がピタッと立ち止まると、手を握ったままの名前も同じように止まった。不思議そうに俺を見上げる名前の目線まで腰をかがめてから、両頬を片手で挟んだ。子供特有の、むに、と柔らかいそれに笑いながら視線を合わせる。


「なぁに?」


俺に頬を掴まれたままで口を開く名前。


可愛い可愛い妹に怪我をされるのは本意ではないし、出来ることならやめさせたいけど。言ったところでこいつは素直に聞きやしないし(大抵のことなら俺の言うことを聞くんだけど)、それなら、俺がしっかり守らなくちゃならない。


「なんかあったら絶対に頼れよ」


・・・これから先、名前のことを守ってくれるような強い男が現れるその日までは。兄貴として大切にしてやりたい。


「うん!ありがと!お兄ちゃん大好きー」


ぎゅう、と抱きついてくる名前を同じようにきつく抱きしめ返した。俺の胸あたりでくすくす笑われて、少しこそばゆい。


(あー・・・これじゃ当分は離れらんねえなぁ)



いつか名前の隣にいるだろう男を勝手に想像して、いまからそいつを呪っている自分に俺は内心で苦笑した。




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