おおきくなったら
「リョータくんっ遊んで!」
「またお前かチビ」
学校も部活もない一日オフの日。雑誌を読みながらベッドでゆっくりしてた俺の所へ、今日も女の子がやって来た。・・・まあオフとは名ばかりでただの入院生活なんだけど。
これが同世代の可愛い女の子や美人なお姉さんならどんなに嬉しいことか。もしそれがアヤちゃんだったら俺はもう死んでもいいかも。
「ねえ、お散歩しようよー?」
「おいおい。こちとら病人だぜ」
「私だってそうだもん!ここは病院なんだからみんな病人じゃん!」
「ウルセー!病室は静かにしろ、チビ」
生意気だとか言って上級生に目をつけられてた俺は、数日前にハデな喧嘩をした。リーダーの三井さんだけはボコボコにやり返したけど、なんせ多勢を相手にこっちは一人だったもんで、数日間の入院生活をするハメになった。
そこで出会ったのが、同じ病室に入院してた小学生の名前だ。何でかは解んないけどコイツは初対面の時から異様に懐いてきて、一日のほとんどを俺にくっついて過ごしていた。
他のルームメイトは年寄りの爺さんや婆さんで、いつも俺たちを微笑ましそうに眺めてた。孫でも見るようなその視線は、ちょっと気恥ずかしかったりする。
「2回もチビって言った!自分だってチビのくせに!」
「何おう!?あーもー遊んでやんね」
「むぅ、大人気ないよリョータくんっ」
まったく、年上に向かってチビやら大人気ないとはいい度胸じゃねぇか。そういうことならお前には構ってやらないからな、と目の前にある名前の頬っぺたを両手で軽くひっぱった。
「うわぁぁあ!うそだもん!」
「嘘つくのはこの口か?ああ?」
涙目になった名前を見てそろそろ許してやるかと両手を離した時、俺たちのすぐ側に誰かが立った。
「二人とも静かにしなさいっ!」
「「・・・ゴメンナサイ」」
2人揃って叱られた俺たちは、騒ぐなら外に行きなさいと言うその看護婦さんに従って、とりあえず廊下に出た。
「じゃあいくか」
「・・・え?」
「散歩したいんだろ。つきあってやる」
ぱぁ!と花でも咲くみたいに笑う顔を見て、知らないうちに俺まで笑っていた。
そのまま病院の中庭に出てベンチに腰掛けると、名前が「あのね、リョータくん」と口を開いた。となりを見下ろせば、まだ幼い女の子がまっすぐに俺を見ている。
「んー?」
「私、リョータくん大好きー」
「なんだよいきなり。マセガキ」
頬をピンクに染めて、にひひと微笑む少女から目をそらしてベンチの背に両手を投げ出した。
「俺にはアヤちゃんがいるからなァ。お子様は眼中ナシ」
俺がそう言うと、名前はグイッとこっちに身を乗り出した。また何か言い返してくるかと思えば、ただ少し頬を膨らませただけで。
「いいもん、もっとおおきくなってから会いに行くからー」
「あっそ」
「そのアヤちゃんって人より可愛くなる予定だもん」
「名前にゃ無理ー」
「・・・むぅ」
よく膨らむ頬っぺたをつつきながら、今より成長して大きくなった名前の姿を想像した。誰の目から見ても名前は可愛い顔をしている。
(・・・あるいは、10年後だったら)
つい緩んだ口元を俺は手で隠した。
「まあ・・・一応、楽しみにしといてやる」
満面の笑顔をした名前に無理やり指切りをさせられて。
そしてその次の日、名前は「約束だからねっ」と手を振りながら退院していった。