続・泣き虫
アメリカにバスケ留学をして数ヶ月のこと。学校の寮で暮らしてた俺のところに、薄ピンク色をした可愛らしい手紙が一通届いた。
(・・・誰からだ?おふくろ?)
身に覚えのないそれに首をかしげながら書いてあった送り主の名前を見て、一瞬驚いた後、俺はすぐに口元を緩めた。
「エージ、なに笑ってるんだ?」
隣にいた友人が、最近やっと聞き取れるようになった英語で俺に話しかけてきた。日本の文化にかなり憧れてるアメリカ人だからかすぐに打ち解けて、いつの間にか仲良くなっていたチームメイトのひとりだ。
そいつは俺が振り返ると、手に持ってる手紙を見つけてニヤけた顔を向けてきた。・・・ちょっとうざい。
「それニホンゴだろ?あ、もしかしてガールフレンドから?」
「違うっつーの」
寮の共有スペースから自分の部屋に戻ろうとしてた俺の後ろについて来て、「じゃあ誰なんだ!教えろよ」と妙にしつこいチームメイトの目の前で、ひらひらと手を振ってからドアを閉めてやった。そしてすぐに鍵をかける。
少し悪いとは思うけど、あいつが近くにいると落ち着いて手紙も読めないから仕方が無い。
俺は静かになった室内でさっきの手紙をそっと開けた。
「なになに、エージくんへ。元気にしてますか?アメリカには・・・」
『エージくんへ。
元気にしてますか?アメリカには慣れましたか?今年のお正月もエージくんに会えないって、テツに聞きました。そっちはさみしくないですか?』
(・・・なんだよ、字めっちゃ綺麗じゃんか)
一文字一文字、丁寧に書かれたその手紙は、日本にいるイトコの名前からだった。
最後に会ったのは数年前の正月のときで、記憶の中の名前は確か小学校に入ったばかりくらいだったと思う。今はどれくらいだっけ、と少し成長した名前を思い浮かべようとしても、いまいち上手くいかなかった。
『私は、エージくんに会えないのがすっごくさみしいです。でもね、エージくんのバスケ応援してるからワガママは言わないでおきます。だってエージくんは私の自慢だから。』
俺は読み進めるうちについウルッときた目元を抑えて、上を向いた。なんだよ泣かそうとすんなよ!と、ここにはいない少女に向かって心の中で叫ぶ。
そういえば、この子が前にウチに来てたときも俺は泣いてばっかだったなと昔を思い出した。
(あれは恥ずかしかった・・・)
『テツにたのんでお手紙送ってもらったけど、これちゃんと届いてるのかな。アメリカは遠いけどエージくんに私の応援が届くといいなあ。じゃあ、ケガとカゼには気をつけてね。
名前より。』
「ありがとな・・・ぐす」
(ちゃんと、届いてるよ)
イトコって関係だけで本当の兄妹じゃないけど・・・。妹がいたらこんな感じなんだろうなと思いながら、俺はその手紙に心底癒されていた。
(・・・ん?)
名前の手紙を読み終えて仕舞おうとしたら、便せんの中にもう一枚手紙があったのに気がついた。
『ついしん。
エージくん、アメリカで泣いてばっかりじゃない?泣き虫は早くなおさないとダメだよ!』
それを見て、俺の目尻に光ってた感動の涙はものの一瞬で引っこんでいた。
「余計なお世話だ!」