carry me!
「おかえりノブ兄ー!」
「おう、ただいま」
「ねえねえねえ!抱っこしてっ」
「またかよ・・・?」
週末の一日練を終えて正直ヘトヘトになりながらも充実した気持ちで家の玄関を開けると、そこへ嬉しそうに全力で駆けてきたのは俺の妹の名前だった。
監督に練習でこれでもかと扱かれた俺は飛びついてくる名前の頭を手で軽く押さえて、リビングのソファにどさりと座った。
「信長、先に洗濯物出しちゃいなさい」
キッチンから顔を出した母が俺のカバンに入ってる練習着を指差してそう言った。
「へーい」
「ノブ兄!返事は『はい』でしょ!」
「・・・」
俺にどや顔でフン、とそう言った名前は最近小学校に上がったばかりだけど、急にしっかりしてきたように思う。
ちょっと前まではノブ兄遊んで〜!つっておままごとに付き合わされたり絵本を読まされたり、あとは抱っこをせがまれたりが多かったのに、そういう甘えたな所が近ごろ減ってるような気がした。
・・・って、抱っこは今もよくせがむけど。
(それが嬉しいってのは、誰にも言わない)
年の離れた妹の成長を感じてなんだか嬉しいのと同時に、それが少し寂しい気もしないではなかった。
「信長、ごはんよ」
「ノブ兄ごはんよ!・・・うわっ」
母のマネをして得意げにしている名前をヒョイっと抱き上げて、自分の肩に乗せてやる。日に日に大きくなっている名前をこうやって肩車出来るのもあと少しか、とまるで父親のような事を考えてる自分に俺は少し笑った。
隣でほどほどにね、と笑っている母に俺は「わーってるよ」と返事をする。
「ノブ兄の抱っこたかーい!すごいっ」
「かっかっか!当たり前だろ、なんたって神奈川のナンバーワンルーキーだからなっ」
「・・・ナンバーワンウッキー?」
「ウッキーじゃねえよルーキーッ!こら名前、お前まで俺のこと『サル』とか言うんじゃねーだろうな」
頭の上で「えー?」と首をかしげた様子の名前は、肩車のまま俺を覗きこんでそのぱちくりした丸い目を向けていた。
「ノブ兄はお猿さんじゃないでしょ?名前のお兄ちゃんだもん」
「おう」
「名前ね、お猿さんも好きだけど、ノブ兄のほうがもーっと好き!いちばん好きっ」
「・・・お、おう!」
そんな俺たちの会話をクスクス笑いながら聞いていた母が「良かったわねお兄ちゃん」とからかってきたので、照れくさかった俺は誤魔化すように咳払いして、さっさと食事の席に座った。
「ノブ兄!肘ついちゃダメでしょ?お行儀わるい!」
「へいへい」
「『はい』だってばっ」
「はいはい」
「むう、返事は一回だけだもん」と言って頬をふくらます名前が可愛くて、わざと怒られるような事をする俺を母は呆れた顔で見ていた。