寝る子は育つ
「楓くん起きてよー!寝すぎだってばー!」
「・・・うるせー」
久しぶりの一日休みで、俺は昼までぐっすり寝ていた。
もちろん、朝はいつも通り早起きして公園でバスケしてきた。シャワーを浴びてサッパリしたら、後はもう、寝るしかないだろ。
「・・・名前、重い」
寝ている俺の上に遠慮なしで乗ってくるのは、年の離れた従妹だ。夏休みにはお互い一人っ子同士だからと、昔からよく一緒に遊ばされていたんだが。
まさか俺が高校生になっても付き合わされるとは思いもしなかった。
(・・・ていうかコイツ、今いくつだ)
「耳元で、騒ぐな」
「起きてんじゃんか!」
「寝てる」
俺がそう言ったら、名前の頬がこれでもかってくらいに膨らんだ。
(・・・おもしれ)
そういうとこは、ガキの頃から変わってない。変わったところと言えば、ちょっとばかし伸びた背と髪くらいだった。他はほとんど昔のまんまで、それを思うとなんか笑えた。
「私もバスケしたかったのに何で置いてったの!?」
「寝てたから」
「起こしてよぉ!」
「・・・明日は、起こしてやる」
「約束?」
「おう」
俺に飛びついて耳元で「絶対だよ!」と言って、無理やり小指を握ってくる。
指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、懐かしいそのフレーズと歌を満足そうに口にすると、満面の笑みを見せてから次いで大きくあくびをした名前。
「ふわ、あ」
「・・・眠いんだろ」
「・・・うん。眠たい、寝る」
もぞもぞと俺の布団に潜り込んでくる名前に自由すぎるだろと呆れながら、それでも追い出すことはしなかった。
その小さな体を、標準より遥かにデカい自分の体で潰してしまわないように少し離れる。
「楓くんどこいくの」
「どこも行かねーから。お前、もっとそっち行け・・・ジャマ」
「ジャマじゃないもーん」
「・・・」
せっかく名前のことを思って離れたのに逆に背中にぴったりと引っ付かれてしまって、今日何度目かのため息がでた。
この自分勝手は誰に似たのか、自分たちはやはり同じ遺伝子を持つイトコなんだなとひとりで納得した。
(・・・子供体温、あったけー)
「あらあら、楓ったらバカねえ」
昼過ぎになっても部屋から出てこない俺たちを呼びに来た母親が、ベッドで大の字になって寝る名前とその下に落ちて寝てる俺を見てクスクス笑っているのが夢見心地の中で聞こえてきた。