泣き虫
「痛ッ!」
俺としたことが、不注意でソファの角に足の小指をぶつけちまって悶えてた。しゃがみこんで痛みに耐えてるとすぐそばに誰かの気配を感じる。
「・・・エージくん?」
「ぅ、ぐす。なんだよ名前」
毎年正月になると家に遊びにくるイトコの名前は、5、6才の女の子。テツの姉ちゃんとこの子供で今年小学校にあがるんだったっけ?どっちでもいーけど。俺、正直ガキとか苦手だし。
そいつが俺の横まで来て、そうっと頭を撫でてくる。
「また泣いてるね」
「うる、さい」
ぐすぐす泣いてるから見えないけど、多分くりくりの目で俺を覗きこんでると思う。カッコわりい姿だけど、我慢出来ないもんはしょうがない。小指、マジで痛い。折れてねえかな。
「あんまり泣くと、かれちゃうよ」
「・・・は?枯れる?」
「すいぶん、こぼしすぎると、かれるんだって。私のアサガオもかれたんだ」
「俺はアサガオじゃねー、し」
じゃあエージくんはなんなの?ってそんなすげー純粋な目で見られても、何て言やいいんだよ。人間?バスケットマン?・・・やっぱり子供は苦手だ。
「知らねー」
結局どう答えていいか分かんなくてそう言った。ちょっと冷たいかもだけど、名前はあんまり泣かない子だから大丈夫だろ、多分。そういう所は嫌いじゃない。
「じゃあね、エージくんはね、」
「うん」
「泣き虫!」
「やめろよ!」
また泣いてる?と俺の目に浮かんできた涙を見てきょとんとした顔を向けてくる。くそ!なんでこんな子供の言うことで泣かないとダメなんだよ!
ちゅ、
「・・・何してんの」
「おまじないだよ」
びっくりして名前を凝視する。いきなり目尻にキスされたせいで涙が全部引っこんでた。
「エージくんの泣き虫がなくなりますように」
二カッと笑ってそう言う名前を見て一気に体の力が抜けた俺は、ただ惚けるしかなくて。次第に恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
あれほど痛かった小指のことなんか、いつの間にか忘れ去っていた。