すきすき
「お前ら俺のプリン食ったな?!」
「「食べてないよ〜ぅ」」
「じゃあ口についてるカラメルはなんだ!」
ゴンッ
「「ごむぇん、兄ちゃん〜!」」
俺と一緒に兄ちゃんに怒られてるのは今年中学生になった河田家の末っ子、名前。その可愛らしい外見は突然変異としか説明できないくらい家族の誰にも似てなくて本人は「私、お母さんの本当の子供じゃないのかな」って落ち込んでたけど、俺からしてみれば、大食いなところとか「うはっ」ていう笑い方とか兄ちゃんソックリだし。名前を知る人は皆、中身は俺と似てるって言うし。むしろ外見なんて、俺らや母ちゃん(ゴメェン)に似なくて良かったと思う。女の子だし。
「なんで俺だけ殴られるの〜?」
兄ちゃんに殴られた頭をさする。痛いよ・・・。名前は何もされてないのに俺を見て痛そうに顔を歪めてた。どうして?
「名前は女の子だから殴れないだろーが!可愛いし」
「え〜また?!ズルいよ」
「ごめんね兄ちゃんだいすき!お詫びに明日、プリン買ってくるねぇ」
名前がタックルするみたいに兄ちゃんに抱きく。兄ちゃんは俺にはしない優しい手つきでその頭を撫でた。名前が可愛いのは分かるけどこれじゃあんまりだ!プリンだって名前が一緒に食べようって持ってきたし、俺より多く食べてたのに!
「うぅ・・・」
俺が悔しくて唸ってると、兄ちゃんにくっついてた名前が俺の横に来た。「美紀ちゃん痛かった?」って俺の殴られた頭を撫でてくる。「大丈夫」って言ったら「美紀ちゃんにもプリン買ってくるから泣かないで?」って笑いかけられる。子供扱いされてるみたいだけど、なんだかどうでも良くなってしまった。いつもそうだ。喧嘩したって怒られたって名前がいるとすごく落ち着いて、許せちゃうから不思議だ。
「兄ちゃんも美紀ちゃんもすきだよ〜」
名前は口を開けば俺たちにすきって言ってくれるけど、もちろん俺たちだってそうなんだよ。母ちゃんも父ちゃんも兄ちゃんも俺も、末っ子の名前の事が可愛くて仕方ないんだ。
だから、
「あ!沢北さんからメールだ〜」
「あ、名前、それ言っちゃ・・・」
「沢北ァ!?」
兄ちゃんが珍しくバッと名前から携帯を取り上げた。
「今度の試合見に来てね♪・・・だと?人の妹にこんなメール送りやがって!調子こいてるべ!許さん!!」
そう言って明日、沢北さんにどうやってプロレス技をかけようか考え出した兄ちゃん。・・・今の兄ちゃんには近づかない方がいいかなあ。練習台になれとか言われたら嫌だもんね。
「兄ちゃん、沢北さんと仲良くすると怒るのなんでかなあ?ね、美紀ちゃん」
「う〜ん。名前の事が心配だからじゃないかなあ〜」
「心配しなくてもちゃんと、兄ちゃんと美紀ちゃんの応援しに行くのにな〜」
兄ちゃんに持っていかれた携帯を取り返すでもなくそう言う名前。
まだまだ兄ちゃんや俺が近くにいるうちは、名前に出会いや恋愛なんてありそうにない。
「過保護だよね!」
「兄ちゃんも俺も名前のことすきだからだよ〜」
「私の方がすきだよぉ!」
「沢北さんよりも?」
「当たり前だよ!兄ちゃんたちの方がずっとすきっ」
俺の背中に凭れてくる名前に口元がにやける。これじゃあ兄ちゃんも俺も、当分妹離れは出来そうにないなあ。