あほちゃうの!
「みーのりくん」
「あ?名前どないしたん」
たまの部活の休みに愛犬の散歩でもしようと家を出ると、お隣の娘の名前が庭の柵を登って顔を見せていた。
(幼稚園くらいやったっけ?)
「ワンちゃん見してほしーねん!」
「ええけど母ちゃんに家出るて言うたか?」
「みのりくんにあうって言った!」
お母さんな、みのりくんによろしくって言うてたで!と、元気いっぱいな返事がなんだか微笑ましい。
「ほな、こっち来いや」
俺がちょいちょいと手招きすると、急いで走って門から入ってきた。隣近所の贔屓目なしに、名前は活発で可愛い少女だった。ちょっと見ない間にずいぶんと成長したように思う。
(こないだ会うた時はこんなスラスラ喋っとらんかった)
「みのりくんとワンちゃんやったらどっちがかけっこ速いん?」
「俺やろなあ」
「ほんま?!みのりくんすごいな!」
「そない褒めんでええで」
ちびっ子にキラキラした目を向けられるのは、気分的に悪くない。もともと子供は好きな方だ。すごいすごいと足に巻きつく名前に俺は満更でもなくて、その小さくて軽い体をヒョイっと持ち上げると、そのまま自分の肩に乗せた。いわゆる肩車だ。
「うっわー!たかいっ!うちのパパよりたかーい」
「ええ眺めやろ」
「みのりくんは、ぱーふぇくと!やな!」
「なんや名前は英語分かるんか。お前の方がすごいわ」
「ほめんでええよ!」
頭の上でさっきの俺の真似でもしてるのか、くすくす笑うのが分かる。
「一緒に散歩するか?」そう言うと、「いく!」と元気な返事がきたので肩車のまま愛犬のリードを持って歩き出した。
「あほちゃうの!」
散歩がてら散々遊び倒してから帰宅すると、汗だくでしかも土まみれ(公園の砂場にも行った)の俺たちを見て、俺の母親がそう言って呆れていた。高校生にもなって云々かんぬんと軽く説教をされる。どうやら(名前が)帰るのが遅くて心配されていたらしい。
「みのりくん、あほなん?」
「・・・かもしれんわ」
肩に乗せていた名前を地面に降ろしてやりながら、年甲斐もなくはしゃぎすぎたと溜息をついた。
「ありがとうな!めっちゃ楽しかった!」
その笑顔を見てまた連れていってしまうかもしれんな、と名前の頭を撫でながら思うのであった。