わたしだけの王子様
「ねえねえ!好きなひといる?」
「そうちゃんだよ」
「かっこいい?」
「おうじさまなんだよ!」
「おうじさまいいなぁ」
わたしのおうじさまは、おとなりに住んでるそうちゃん。背がおっきくて、やさしくて、わたしのことお姫さまって言ってくれるの。だいすき!
「名前、帰ろうか」
「そうちゃん!」
そうちゃんは、たまに保育園のお迎えにきてくれるの。わたしのママはお仕事してるから、そうちゃんか、そうちゃんのママがきてくれるんだ。
「わあ!このひとが名前ちゃんのおうじさま?」
「すっげー!でっけー!かっこいい・・・」
お友だちの男の子が、そうちゃんを見て言った。そうちゃんはすごく背がおっきいから、見あげるのがちょっとしんどいんだ。
わたしが「そうだよ」って言おうとしたら、ふわってそうちゃんに抱っこされた。
「そうだよ、俺が名前の王子様。みんなよく知ってるね」
「ふふふ」
そうちゃんがわたしをギュってしてくれるからすごく嬉しい。
「いいなー名前ちゃん、わたしもおうじさまに抱っこしてもらいたい!」
「俺も!」
したを見たら、お友だちがそうちゃんの足にひっついてた。そうちゃんは何もしないでわたしの顔をニコニコして見てるだけ。
「だ、だめだよ!あのね、そうちゃんは名前のだから、わたしのおうじさまだもん」
そうちゃんを取られちゃうのがいやで、かなしくて、ちいさな声で言ったら、わたしのほっぺにちゅ、ってそうちゃんがちゅうしてくれた。ほっぺがあついよう。
「そういうことだからゴメンね。俺のお姫さまは名前だけだからさ」
わたしの目を見て、頭をなでてくれる。うれしくてわたしはにっこり笑った。
「抱っこするのもキスするのも名前にしか出来ないんだよね。じゃあね」
さっさと帰るために歩くそうちゃん。わたしは抱っこされたままお友だちをふりかえると、みんなまだぼうっとそうちゃんを見てた。いちおう、バイバイって手をふっておく。みんな、気づいてるのかな?
「俺のお姫さまなんだから、ほかの子を選んだらだめだよ?」
「えらぶ?」
「好きになっちゃだめってこと」
「わたしがすきなの、そうちゃんだけだもん」
「ならいいけどね」
「?」
そうちゃんはたまに、わたしにすきなひとがいないか聞いてくるけど、いつだってわたしはそうちゃんがすきなんだよ。ずっとすきなんだよ。
「お姫さま、もうすぐウチにつくよ」
「うん!帰ったらおままごとしようねっ」
「もちろん。名前の恋人役ならしてあげる」
「こいびとってなーに?そうちゃんはおうじさまがいいなっ」
「んー・・・仕方ないから今は王子様でいいよ」
そうちゃんは、わたしだけのおうじさまだから。ほかの子のおうじさまにならないでね。