年下の女の子 | ナノ
褒めてほしいの!

ピンポンピンポン

せっかくの土日も受験生にとっては勉強づくしの休みでしかなくて。試験に向けて勉強しているところにインターホンのチャイムが鳴った。ちょうど休憩しようかと思ってたところだったからタイミングは悪くない。新聞勧誘だったら今日は優しく追い返すとしよう。そう思って玄関をあけると、予想外にそこには誰もいなかった。否、視線を下げると、こちらを大きな目で見上げる少女がいた。


「タケちゃんっ!」

「ああ、名前か」


ガバリと俺の腰に飛びついたこの子は近所に住む小学生で、来年には中学に進学する筈だ。知らない仲でもないので居間に上げてソファに座らせる。言いたいことがあるのかソワソワとどこか所在無さげに俺を見ていた。まるで「待て」をされてる飼い犬みたいで、可愛いと思う。
昔から名前は俺や春子に懐いていてよく家に遊びに来ていたんだが、俺が高校に入ってバスケに忙しかったのもあって会ったのは久しぶりだった。


「春子なら買い物に行ってるぞ?」

「タケちゃんに会いに来たの!」

「・・・俺に?」

「あのね!私ね!」


向かいに座る俺の方に身を乗り出して顔を近づけてくる。聞いて欲しいことがある時の名前はいつもそうだった。ちゃんと聞くから落ち着け、と言ってもあいにく効果はなかった。


「ミニバスの県大会で優勝したの!」

「・・・凄いじゃねえか」

「えへへ 私、ちゃんとスタメンだったよ!」

「いつのまにそんな上手くなったんだか」


昔はよく春子の特訓にくっ付いてきて、ついでにレイアップやワンハンドシュートを教えたりしたものだったが。
俺が教えたバスケをこいつが続けていたのが嬉しくて、ついにやけてしまった。それを見たのか名前はもっとふにゃけて笑うと、ソファに座る俺に飛びついてきた。


「タケちゃんに褒めてほしくて頑張った!」

「俺に?」

「うん。だってタケちゃん忙しくて会えなかったから・・・」

「そうだな、」


俺にしがみつく名前の頭をそっと撫でてやる。一人っ子のこいつにとって俺や春子は兄や姉のようなものだった。それは今も変わらないみたいだ。


「おい名前、久しぶりにシュート見てやる」

「ほんとッ!?」


バッと俺から顔を離すと本当に嬉しそうな顔をしてもう一度キツく抱きついてきた。


「公園行くか」

「行く!」


俺はそのまま立ち上がり、部屋にボールを取りに行く。その間もずっと俺の首にしがみついてるその姿はさながら猿の親子・・・ゴホン。(桜木には見られたくない姿だなこれは)




ガコンッ

「なんだ、シュートは相変わらず下手くそだな」

「うっ レイアップだけだもん!ドリブルは上手なんだよ!?」

「はいはい」

「タケちゃんもっと褒めてくれなきゃヤダ!」

「じゃあレイアップの特訓だ」

「えー・・・」


昔に戻ったみたいに飽きるまでバスケをしてから帰ると、ちょうど晩飯の支度を手伝っていた春子に見つかり、久しぶりに名前が赤木家の食卓に迎えられた。


楽しげな妹二人を見て、悪くないなと、口元が緩んだ。

(タケちゃん食べすぎだよう!)
(お前はもっと食え)
(む!)

((・・・春子(ちゃん)おかわり!))
(二人ともそっくりだわ)



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