◇ 猫に好かれたい
07 ◇
( 7/15 )
「じゃあね」
「うん、また明日ね」
バイバイ、と手を振って友達と別れた。お互い反対方向の電車に乗って、最寄駅からは歩いて帰る。放課後、ついつい長話していたら、すっかり帰るのが遅くなってしまったのだ。
途中、通りかかったいつもの公園には誰もいない。一瞬だけ期待した幼馴染の姿もそこにはなくて、なんだか少し残念に思った。その気持ちを癒すかのように、公園にいた野生の猫が擦り寄ってきたので、私はデレデレとにやけながらその頭を撫でた。随分と人懐っこい。しばらくそうしていたけど、気が付けばいつの間にか辺りは暗くなっていて。流石にこれ以上寄り道はできないな、と立ち上がる。名残惜しいが猫ちゃんともお別れして、再び帰路についた。
家まではまだ少し距離がある。そんな時、私のすぐ隣を車が走り抜けていった。ものすごいスピードに驚いた私は少しよろける。
「危なっ……!」
当たったらどうしてくれるんだ…!とその車に文句を言っていると、今度は私のすぐ後ろでキュッとブレーキの音がした。はいはい車の次は自転車ですかと振り返れば、なんとそこには、会いたいと思っていた男の子の姿が。
「あっ、楓くん!こ、こんばんはっ」
「……こんばんは」
突然の登場にこれでもかと驚いた私。
部活帰りだろうか、学校の荷物に加えてバッシュやらボールやらを背負ったり手に持ったりしていた。よくそれで自転車を漕げるものだとちょっと感心した。
「…………」
「…………」
パチリと目が合ったので数秒じっとしていたら、自転車を降りて手で押し始めた楓くん。そうして少し歩くと、こちらを振り向いて視線だけで何かを訴えてきた。ような気がする。
何も言わずにただ隣でペースを合わせてくれる楓くんを横目に、これはつまり一緒に帰ろうというあれかな?と都合良く解釈しながら、私はフフフと口元を緩めた。
「名前、遅いから心配したじゃない。探しに行くところだったんだから」
「ごめんごめん。友達と話してたら遅くなっちゃった」
楓くんと一緒に歩くのは久しぶりで、なんだか少しドキドキとしてしまった。けどあれから特に会話があった訳でもなく。しばらくして先に私の家に着くと、彼はコクリと会釈をして目と鼻の先にある自分の家へと帰って行った。
「それでね、楓くんが一緒に歩いてくれてさ。気まぐれでも嬉しかったなぁ……」
私が一人でにやけていると、母は突然ため息をついた。
「……アンタそれ、気をつかって送ってくれたのよ。言ったでしょ?最近この辺りで不審者が目撃されてるって」
「……え、」
「またお母さんの話聞いてなかったのね……」
まったくこの子は、と呆れられ、返す言葉もなかった。不審者の話なんてまったく身に覚えがなく、楓くんと会わなければ暗い夜道を私は能天気に歩いていた訳だ。そう思うと、今になって少し薄気味悪さを感じてきた。
いや、でも待てよ。
ということは、楓くんがわざわざ自転車を降りたのは、少なからず私を心配してのこと。なんだよね?
「……悪くないかも」
一見、言葉少なで素っ気なく見える楓くん。そんな彼が自分のために行動してくれたのだと思うと、不審者の恐怖なんてすっかり何処かへ飛び去って、私の心にフワリと暖かさを残した。
まあ、全部ただの思い過ごしかもしれないけどね。