◇ 猫に好かれたい
06 ◇
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日曜のお休みって最高だ。宿題は昨日のうちに終わらせたし、あとは明日まで自由に過ごすだけ。テレビを見たりゲームをしたり、お昼ご飯の後はお昼寝したり。
しかしそんなだらけきった姿を見てやれやれと首を振った母が、なにやら小さな段ボールを私に持たせてきた。見た目に反してずしりと重いそれを抱えて首を傾げる。
「なにこれ?」
「実家から届いたお野菜。とっても暇そうだから、流川さんのところにおすそ分けしてきて」
「え、流川さんって……」
「お願いね」
ガチャンと玄関の閉まる音で我にかえる。
家を追い出された私は、ぽかんとした間抜け面をやめてさっさと流川家に向かうことにした。
といっても目的地は目と鼻の先、徒歩一分もかからない場所にある。考え事をする間も無く到着した家を見上げて、まず、その懐かしさに目を細めた。幼い頃はそれこそ毎日のように行き来していたが、ここ数年はお邪魔することも無かった場所。立派な門に備えられたチャイムが、今は楽々届く高さになっていた。
「……こ、こんにちは〜……名字です」
母親同士は最近また付き合いがあるらしいけど、私が顔を合わせるのは本当に久しぶりのことで。大きく息を吐きながらドコドコと高鳴る心臓をなんとか落ち着かせて、腕の中の段ボールを抱え直した。私って結構人見知りなのかも。
「あらあら、名前ちゃん!?すっかりお姉さんになっちゃって……」
扉を開けて出てきたのは、スラッと背が高くて色白の美人。目があった途端パァと明るい笑みを浮かべた楓くんのお母さんは、私が何か言う前に快く出迎えてくれて、その上「あがっていって」と冷たいレモンティーまで振舞ってくれた。
初めは遠慮がちだった私も昔話をしているうちにすっかり慣れてしまい、時計の長針が一周する頃には彼女への呼び方も昔のように「楓くんママ」に戻っていた。
「あら……楓が帰ってきたみたい」
しばらく話に花を咲かせていると遠くから物音がして、楓くんママが時計を見上げた。
「こんなに時間が経ってたのねぇ」
「ほんとだもうこんな時間!?長居してごめんなさいっ」
どうやら午前練を終えた楓くんが帰宅したらしい。馴染みすぎたと少し反省しながら腰を上げる。そろそろお暇するとしよう。
楓くんママにお礼を言って立ち上がると、ちょうどジャージ姿の楓くんが居間の入り口に立っていた。
「あ、こんにちは」
「……ウス」
私から声を掛けると、公園で会った時のように少し驚いた顔をして、すぐに会釈をしてくれた。それから、なぜ私が居るのかと言いたげに首を傾げるので、お裾分けのついでに長居してしまったのだと説明する。
「それじゃ、お邪魔しました」
「……ドウモ」
コクリと頷いた楓くんは、昔と変わらず無口な様子で。でもしっかりと返事をしてくれたのがなんだか嬉しかったし、可愛いと思ってしまった。
にこにこ笑って私たちを眺めていた楓くんママに「名前ちゃん、また来てね」と言われて浮かれた私はその日、楓くんと遊んでいた幼い頃の夢を見た。またあの頃みたいに仲良くなりたいなぁ、なんて……難しいかな?