◇ 猫に好かれたい
04 ◇
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「名字!今日は一緒に帰れる?」
「あ、あー……うん、そうだね」
やった、と嬉しそうに笑う男の子を前に、乾いた笑いで返す。彼は隣のクラスの男の子で、実は中学も同じ富中だったらしい。最近になってよく話しかけられるようになり、ここ数日は一緒に帰らないかと何度も誘われていて。初めはなにかと理由をつけて断っていたけれどあまりにしつこ…必死だったので、まあ一緒に帰るくらいならいいか、とつい頷いてしまったのだ。
いくら恋愛に疎い私でも、彼が自分に好意を持ってくれていることくらいは分かっていた。いろんな話題で話しかけてくれる彼になんとなく相槌を打ちながら歩いていると、いつもの公園を通りかかった。
「……あ、楓くん」
今日もいるかな?と少し期待していると、予想通りの人物が公園から出てくるところだった。楓くんが私の声で顔を上げる。
以前からこっそりとその姿を見守っていたけれど、こうして対面するのは久しぶりのことで。なんて声をかければいいのかも分からなかったから、とりあえず「こんにちは」と挨拶してみた。
「……うす」
彼は一瞬だけ驚いた顔をして、それからすぐに無表情に戻った。返事をしてくれたということは私のことを覚えてたってことだよね?ああ良かった。知らないフリされたら流石にへこむ。
真っ直ぐ見下ろされてちょっと照れくさいかもなんて考えていたら、視線が私の隣に移った。あれ、そういや男の子の存在をすっかり忘れていた。
楓くんは黙ったまま男の子を一瞥し、もう一度私の方を向いて軽く会釈した。自転車に乗った彼の姿が見えなくなると、息を止めていたのか大きな溜息を吐き出した男の子。
「……仲良いの?」
「どうだろう、普通のご近所さんかな?」
「へ、へえ……俺、あいつ知ってる」
「そうなんだ」
「バスケ部の……流川」
「そうそう。いま富中のキャプテンらしいよ」
何故だか気まずそうな顔で「ふうん」と返ってきただけで、それ以降あまり会話が弾むこともなかった。それは私にとって都合がよかったけれど、彼はこんな風に下校するのを楽しみにしてたんだろうかと、隣を歩きながら首を傾げたのだった。