猫に好かれたい | ナノ
◇ 猫に好かれたい 14
( 14/15 )


「……できた、っす」
「お、はやいね」


あれよあれよと楓くんの家庭教師をすることが決まり、今日で授業は5回目だ。私も自分の勉強があるから、お互いに無理の無いようにと週に1回のペースで流川家にお邪魔していた。
今のところ本人に不満は無さそうで、授業態度は思っていたよりもずっとずっと真面目だった。たまにペンを握りながら眠ってしまうときもあるけれど、それを起こして問題を解いてもらうというやり取りにも大分慣れてきた。

夏の総体が終わり立派に富中のキャプテンを勤め上げた楓くんは、学校がある日以外は公園でバスケをするか、家で勉強するか、寝ているかの生活を送っているらしい。楓くんママからの情報に、彼らしいなぁと笑みが溢れたのだった。


「ん、ここね、選んだ単語は合ってるけどスペルが間違ってる」
「あ……」
「それ以外はよく出来てるね」
「うす」


さっそく言われた場所を書き直す彼の手元を見ていると、その大きさに改めて驚く。私より二回りくらい大きい手。これでまだ成長期の途中だろうから、驚くばかりだ。この手であの大きなボールを自由自在に操っちゃうんだな、なんて考えているうちに、ふと素朴な疑問が浮かんで、何も考えないまま口にした。


「楓くんは……どうしてバスケを始めたの?」
「…………」


私の突然の問いかけに、ピタリと手を止めた楓くん。しばらく二人とも無言でいると、ボソッとなにかを呟くのが聞こえた。よく聞き取れなくて慌てて聞き返すと、楓くんは私の目をまっすぐに見て、それからがしがしと髪に手を通した。心なしか目元が赤い気がするんだけど…


「楓くん?」
「……教えねー」
「ええっ!!」


さっき何か言ってくれたんじゃないの?としつこく食い下がるも、それ以降楓くんが何かを答えてくれる気配は無くて。なんだかすごく勿体ないことをした気分になって落ち込む私から、楓くんは目を逸らして小さく笑っていた。
そして思い出したように教科書を手に取ると、勉強の続きを急かすように「名前先生」なんて呼ぶものだから、私は諦めて新しいページに意識を向ける。

少しは懐いてくれたと思ったのにこうしてはぐらかされたりして、相変わらず猫みたいな少年だなと思う。まあ、猫にしては随分と大きいけれど。それでも、以前よりは格段に昔の関係に戻れている気がして私は嬉しかった。


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