猫に好かれたい | ナノ
◇ 猫に好かれたい 13
( 13/15 )


「名前ちゃん、おかえり」


家に帰ると楓くんママが遊びに来ていた。うちの母とお茶しながら話しているのをなんだか懐かしいなと思いながら、勧められるままに私も腰を下ろす。

最近またよく話すようになったという母たち二人は、数年のブランクを感じさせないほど盛り上がっていた。新しくできたお店が綺麗だとか何丁目のお婆さんが、とか話題が尽きない二人の会話に耳を傾けていると、そのうち楓くんの受験の話になっていった。


「本当に……このままじゃどこにも受からないと思うわ、あの子……」


どうやら楓くんの成績が良くないらしい。こんな話、私が聞いててもいいのだろうかとも思ったけど、楓くんママがお構いなしに続けてたので気にしないことにした。

まあ、私自身も学生の身だし、勉強したくないという気持ちが分からなくはない。それに、楓くんは勉強を補って余るほどバスケが上手いからいいのでは、とも思っちゃう。きっと自力で受験とかしなくてもスポーツ推薦とか来るんじゃないかな?なんてひとり相槌を打ちながらお茶請けのお菓子を頬張っていると、それまで聞き役に徹していた私の母がとんでもないことを宣った。


「名前、ちょっと楓くんのお勉強見てあげたら?」
「……えっ!?んぐ、っごほ、ごほッ」


急な展開に驚いて食べかけだったお菓子を喉に詰まらせる。それを見て心配そうに私を覗き込んだ楓ママが背中をさすってくれた。なんとか紅茶を流し込んで落ち着く頃には、母の呆れた顔とにこにこ微笑む楓くんママの視線が揃って私に注がれている。


「名前は普段ぼーっとしてるけど成績は悪くない方だし、中学生の範囲なら勉強も教えられるんじゃない?それに、どうせ帰宅部で暇でしょう?」
「お母さん……もっと言い方ないの」
「いつも家でゴロゴロしてる姿しか見ませんけど?」
「それは……そう、だけど」


実の母とは思えない言い草に口を尖らせていると、パッと両手を握られた。誰になんて確かめなくても、それが楓ママだということは分かる。「名前ちゃんが教えてくれるなんて、すっごく助かるわ!!」とキラキラした表情に迫られて私の頬をつう、と汗が流れる。


「わ、私なんかが教えられるかな……それに、こういうことは本人にも、聞いてみないと……」
「あら、あの子が断るはずないわ」
「そんな……はっきり」


あまりにも自信満々に断言するものだから、私はハハハと乾いた笑みを浮かべるしかなかった。そして、家庭教師をしてもらうからには授業料を出す、という楓ママにぶんぶんと首を振り、代わりに毎回紅茶とお菓子をいただく約束をしたところで今日のお茶会はお開きとなった。

「やるからには責任持つのよ」と事の発端である母が笑っていたので、私はなんとも言えない気持ちを飲み込んでため息を吐き出した。


PREVNEXT


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -