猫に好かれたい | ナノ
◇ 猫に好かれたい 12
( 12/15 )


「あ、名前さんだ」
「……仙道くん……毎日大きいね」
「うん。毎日伸びてるのかも」


廊下を歩いていると、階段に差し掛かったところで上から声がかかった。随分ゆったりとした動きで階段を降りてきた仙道くんには、相変わらず嫌味が通用しない。ていうか、いつの間にか名前呼びになってるし。

何故か私を見かける度に声を掛けてくるこの後輩は、周囲の視線や噂など気にしていないかのように近付いてくる。最初は私にしか話しかけなかった仙道くんだけど、今では私の友人たちの顔も覚えたみたいで、そちらにも声をかけている。お陰で私一人が妙なやっかみを受ける事とかもなくて、そこは一安心だった。今ではみんなで可愛い弟扱いしていて、当の本人も満更じゃなさそうだった。


「今度の土曜にさ、バスケ部の試合があるの知ってる?」
「……へえ、知らなかった!でるの?」
「ウン。一応スタメンだからね」
「陵南って結構強いのに、スタメンなんてすごいよ。頑張ってねルーキーくん」
「応援しに来てくれる?俺、差し入れとか憧れるんだけど」


ニコニコ、何が楽しいのか頬を緩めて見下ろしてくる仙道くん。さっきからこちらを気にしている通りすがりの女の子たちが、嬉しそうにその顔を眺めていた。

差し入れならあの子達がいくらでもしてくれるんじゃない?なんて思ったことが口に出そうだったので、慌てて首を振った。それをノーと捉えたのか、彼の眉が少し下がる。これは、べつにそんなつもりじゃ無かったんだけど……でもまあ、行けないのも事実だったので、あえて訂正はしなかった。


「土曜日でしょ?私も、大事な試合があるんだよね」
「あれ、名前さんって部活とかやってた?」
「私のじゃないんだけど……まあ、ちょっと幼馴染の応援に」
「……幼馴染、ねえ」
「ともかく、君がどれだけ活躍できたか、報告楽しみにしてるからねっ」


そう言ってパチン、とウィンクをすれば、彼お決まりの口を尖らせる仕草をして、残念そうにしている。さあ行った行った、とその背を軽く叩いて、私も教室に戻った。




「名前ちゃんこっちこっち!」
「はいっ」


こちらに向かってひらひらと手を振る女性を見つけ、口元が緩む。何故か数日前の仙道くんとのやり取りを思い出していた私は、最近すっかり仲良くなった楓くんママの元へ駆け寄り、確保してくれていた応援席に座った。

今頃あのルーキーくんも頑張ってるかな、なんて考えながらこコートを見渡す。試合直前のアップをしている富ヶ丘中バスケ部の中でも、一際背が高くて異常に目を引く綺麗な男の子。4番のユニフォームを着て、うっすらと額に汗を浮かべる姿がなんとも眩しい。

本人には内緒でこっそり応援にきた中学の試合。周りには明らかに楓くんを応援している女の子たちがいて、素直にすごいなと思う。それだけ人を惹きつける力がある男の子ってことだ。


「楓くん、かっこいいですね」


中学の総体、主将としてチームを率いる楓くんを見て、さっきからドクドクと鼓動が止まない。それはこの会場の熱気のせいなのか、それともまた別の理由からなのか。

「あの子はバスケを取ったら何も残らないと思うけどね」と苦笑する楓くんママは、続けて「名前ちゃんみたいなお姉さんに引っ張って貰えたら、安心なんだけど…」と言って、私に意味ありげな眼差しを向けた。


「あ、始まりますよ!」


審判の笛で整列し始めた楓くんしか見えていなかった私は、何か言われた気がして振り返ったけれど、楓くんママは笑って首を振るだけだったので、コートに視線を落とした。

この日この瞬間まで、自分の中にあった幼馴染の「可愛い」と思っていた部分が一切消えて、私の脳裏には直向きにボールを追いかける「かっこいい」男の子の姿が強烈に焼き付いたのだった。


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