猫に好かれたい | ナノ
◇ 猫に好かれたい 11
( 11/15 )


「なーんで昼休みに雑用しなくちゃいけないの……」


ぶつくさと文句を言いながら中庭を歩く。
授業中、少しよそ見をしていた私に先生は容赦なく雑用を言い渡した。女の子に大量の荷物を運ばせないで欲しいよね、と眉根を寄せながら生垣のそばを通った時。


「うわっ……!?っと、とと!」
「……んん」


草陰から伸びていた長い足に気付かず、盛大に躓いて両手と膝をついた。幸い芝生の地面だったので怪我は無いが、驚いたことで心臓がバクバクしていた。

少し怒りも込めて、こんなところで寝ている人物を振り返ると、そこには初めて見るツンツン頭の男の子。のそっと上半身を起こし、僅かに開いた目と視線が合った。


「ふわあ、……ん、なんだ、?」
「起こしてごめんね。君の長い足に引っかかったの」
「ああ〜……」


嫌味を言うつもりは無かったけど、欠伸をしながらあまりにも緊張感のない男の子を前に、少し嫌な言い方をしてしまった。
私の怒った表情を見て、太い眉を八の字にした彼は「すんません」と笑った。


「ちょうどいい感じに木陰になってて……」
「……たしかに、昼寝にはちょうどいいかも」


のらりくらりとした姿を見ていると、なんだか毒気を抜かれて、私までへらっと笑みが溢れた。そもそもそこまで怒ってた訳じゃないし。私が笑うと、彼は少し不思議そうに首を傾げた。その顔はまだあどけなさがあって、一年生だろうかと予想する。座ったままの状態でも、目の前の男の子がかなり大きいのが分かる。


「何年生?」
「えっ……私?二年、だけど…」
「あれ、じゃあ先輩か。名前は?」
「名字 名前、だけど」
「……名字さんね」


やっぱり一年生だった、と予想が当たっていたことに喜びつつ、聞かれるまま自己紹介をする。そして彼があの噂の「仙道くん」だと知り、これでもかと驚く私。


「どうりで!大きいと思った!」
「……俺のこと知ってるの?」
「有名人だもん」
「そう、なの?」
「毎日名前聞くよ。バスケ部の期待の新人だって」
「へえ……その割には、名字さんは俺の顔知らなかったんだ」


それはそこまで君に興味が無かったから、なんて本人を前にして正直に言うわけにもいかず。「あはは」と適当に流した。

あの仙道くんと話をしたことを友人たちが知ればきっと羨むだろうな、なんて考えながら、よいしょと立ち上がる。スカートやら膝やらについた草を軽く払って「もう行くね」と仙道くんを見下ろした。


「じゃあ、部活がんばって!」
「……先輩は応援きてくれないの?」
「私が行かなくても、女の子いっぱい応援来てくれてるでしょ?」
「……ちぇっ」
「またね」


今日初めて会って自己紹介しただけなのに、随分と懐っこい子だな、と苦笑する。学校中で噂されるくらいだし、彼もかっこいい部類の男の子なんだろうけど……やっぱり楓くんとは違うなと思う。なんでもかんでも楓くんと比べすぎかもしれないけど。



「……名字 名前……先輩、ね」


自己紹介をしただけであっさりと別れたというのに、その日以来、妙に仙道くんに懐かれた私は、案の定、どういうことだと友人達に詰め寄られることになって大変だった。



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