猫に好かれたい | ナノ
◇ 猫に好かれたい 10
( 10/15 )


寒い冬が終わって、春になった。
学年がひとつ上がるだけで不思議と背筋が伸び、大人に一歩近づけたような気がした。平和そのもののような毎日は、特に刺激的なことはないけど、悪くないと私は思っている。



「ねえ、さっき仙道くん見たよ!」
「いいなー」
「女の子に話しかけられてたけど、あれ、三年の人じゃないかな」
「へえ〜、学年問わず人気なんだね……って、名前聞いてる?」


「…………えっ?」


一年生の話で盛り上がっていた友人たちが、一斉に私の方を向く。
相変わらずふわふわと過ごしていた私は、ひとり窓の外をぽけーっと見ていたので、何を話していたのかまったく理解していなかった。


「まさか仙道くんのこと知らないなんて言わないよね!?」
「いくら名前でもそれはないでしょ」
「こんだけ話題になってるもんね」
「……みんな、私を何だと思ってるの!」


最近よく話題になるのは、男子バスケ部の期待のルーキー「仙道くん」だ。東京の学校からうちの学校のバスケ部顧問にスカウトされて来たらしい。

言われたい放題の私だけど流石に仙道くんのことは知ってる、と内心ちょっと得意げだった。というか、毎日毎日学校中が彼について呆れるほど噂しているのだから、これで知らない方がおかしいって話だ。
まあ……顔は見たことないんだけど。

友人たちといつも通りのやりとりをしていると、大きな影が私の近くを通った。大きな体を特注の机と椅子に収めた魚住くん。新しいクラスになって初めて隣の席になった彼も確かバスケ部だった気がする。


「……なんだ、名字?」


あ、見つめすぎた。

不思議そうな顔をしてこちらを見下ろす魚住くんに「なんでもないよ」と手を振った。またそのうち話す機会があったら聞いてみようかな、と心の中で呟いて、それからまた私は窓の外へ視線を向けた。

間もなく授業のチャイムが鳴るというのに、中庭の端っこのベンチで寝転ぶ生徒を見つける。確かにお昼寝するには絶好の日和だけども。なにもあんな丸見えな場所でサボらなくても、と名前も知らない男子生徒に小さく溜息を吐き出した。



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