嫌よ嫌よも | ナノ
君にしか頼まない
( 8/12 )


廊下を歩く後ろ姿を見ただけでそれが誰だか分かる。他の女の子を間違えることはあっても名前だけは間違えたりしない自信が俺にはあった。それは名前が俺の幼馴染で、まあ、それなりに大事な存在だからだ。

静かに近付き、そっと肩に触れると、彼女の身体がビクッと強張る。


「名前」
「えっ……え、なに」
「ちょっと来て」


友人たちと一緒にいた彼女を引っ張って人気の無い廊下まで連れて行く。そこでようやく掴んでいた腕を離せば「急に何なの?」と首を傾げている名前。


「今日さ、部活ある日だろ?」
「うん……あるけど」
「終わったら体育館に来てよ」
「……体育館?」
「じゃあね。待ってるから」
「あっ、ちょっと宗一郎……!」


自分の用件だけ伝えて満足した俺は、まだ何か言いたげな彼女を置いてさっさと足を進めた。教室の自分の席に着くと、弛んだ口もとを手で覆いながら、早く放課後にならないだろうかと窓の外を眺めた。





「……ねえ、本当にいいのかな?私がいても」
「いいんだって。もう全体練習は終わったんだから。それに、もう他に残ってる人もいないし」


今日もハードな練習を終え、居残ってシューティングをしていた俺の所へ約束通り彼女はやって来た。

手伝ってほしいと言った俺に困り顔で頷き、拾えばいいの?と転がっているボールに手を伸ばす。その姿を見て、こういう時、やっぱり名前は幼馴染なんだなと実感する。普段は少し抜けてるところがあるくせに、俺が必要とする時はいつだって思いを汲んでくれた。


ダムダムダム、と一定のリズムでボールを弾ませ、そのまま前方のリングへと放つ。綺麗にネットを通る音。その感覚を忘れないように、足の先から手の先まで神経を集中させる。


「えっと、今ので371だっけ……?」
「372だよ」
「自分で数えられるなら私いらなくない?」
「そう言わずに、料理部がある時だけでいいから付き合ってよ」
「まあ……いいけどさぁ」


額から流れる汗を袖で拭い、飛んできたパスを片手で受け取る。一人で練習するよりも格段に効率が良かった。


「アイスくらい奢ってもらわないと割に合わないからね」


そう言って笑う彼女がどうしようもなく可愛く思えた。それが幼馴染としての感情なのか、それとも、異性としてなのか。

はっきりとは分からないけど、とりあえず今は考えるのをやめて大きく息を吐き出した。無心で放ったシュートが綺麗な弧を描く。


「373」


名前の声が、二人きりの体育館に響いた。


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