嫌よ嫌よも | ナノ
ただ黙ってとなりに
( 7/12 )


お前にセンターは無理だ。


練習の最後、監督から告げられた言葉は俺の頭を一瞬で真っ白にして、それからずっと胸の中でぐるぐると渦巻いていた。

中学の時からセンターをしていた俺には、かなりショックな言葉だった。悔しさもあった。けど、なんとか表情には出さなかった。センターが無理だというのならアウトサイドのシュートを決めてやる。元来負けず嫌いな性格がすぐに俺をシュート練習へと突き動かした。



「……ただいま」


いつもより重い足取りで家に帰る。時間も随分と遅くなってしまった。

ふと玄関を見下ろすと、よく見る女物のサンダルがふたつ。名前とおばさんが来てるのかと考えて、そういえば今日やるドラマを一緒に見るとか言っていたっけ、と思い出す。リビングを覗くと予想通り食い入るようにテレビを見つめる女性陣がいた。まあよくある光景だから、べつに驚きはしない。


「あ、おかえりー」


俺に気付いた名前の声で、おばさんと母さんも振り返る。パタパタと夕飯の準備をしてくれる母に礼を言って、その間にさっさとシャワーを浴びた。



「……入るよ?」

数回のノックのあと、返事を待たずに名前が部屋に入ってきた。俺は真っ暗な部屋の中でベッドにうつ伏せたまま顔を上げることもしない。部活での出来事がまだ燻って、口をきく気力も無かった。

彼女は特に気にする様子もなく電気をつけるとベッドの端に座り、ただじっとこちらを見下ろしているようだ。


「…………」
「疲れてるね。あ、荷物もそのまま」


そう言ってまた立ち上がると、まるで母親のようにそこら辺を片し始める名前。

こんなに身体が重いのは、やっぱり精神的にしんどいからだ。他の人たちの前では普通を装ったけれど……目の前にいるのが名前だけだと思うと、取り繕うのも面倒に感じた。その必要もないとわかっていた。目を瞑ったまま何も考えずに、ただ呼吸を繰り返す。


「宗一郎」


ふいに名を呼ばれた。

その声があまりに優しくて、起きる気のなかった瞼がひらく。顔を上げて名前の姿を捉える前に、何かが口の中に突っ込まれた。サクッとした食感のそれは程よい甘さのクッキーだ。何度か咀嚼をして、ごくりと飲み込んだ。


「……美味い」
「でしょ」


確実にお菓子作りの腕を上げている気がする。嬉しそうに笑うと、もう何枚かのクッキーが入った包みを俺の頭に乗せて、そのまま部屋を出ていった。お邪魔しました、とリビングに一声かけて玄関を出て行く気配がして、ようやく大きな溜息を吐き出す。


「………はぁ、まいったな」


聞かなくても、あの幼馴染には俺が落ち込んでいることが分かってしまうらしい。今日の俺の出来事なんて知らない筈なのに。落ち込んだり嫌なことがあった時、名前はいつだって俺の近くに来て、何も言わずに笑いかけるんだ。


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