嫌よ嫌よも | ナノ
王子様ならもっと優しい
( 6/12 )


ドゴッ

という鈍い音とともに、顔面を直撃したバレーボール。友人と渡り廊下を歩いていた私に見事命中したそれは、中庭で遊んでいた男子が飛ばした物だった。


「……っ、うぅ」
「だ、大丈夫?名前ちゃん」
「名字ッ、悪い!!」


運悪く鼻先にぶつかって、そのあまりの痛さにうずくまっていた私。心配する友人と、ボールを飛ばした張本人の男の子が、しきりに声を掛けてくれるけど、とても返事なんて出来ない。

これかなり痛いし鼻血出てるかもしれないな、なんて考えていると、突然誰かに腕を引かれ無理やり上体を起こされた。


「!わっ、……な、に」
「……酷い顔だね」
「う、うるさい」
「血も出てる」


涙が浮かんだ目で見上げると、眉間に皺を寄せた宗一郎と視線が合った。そして同じ体勢でしゃがみ込んだ彼にぐい、とハンカチを押し付けられる。


「い、痛っ!……やめ、うぐ」
「おい、神……もうちょっと優しくしてやった方が……」


乱暴な拭き方のせいでぽろりと涙が流れた。だって本当に痛い。鼻って人間の急所なんだよ?分かってる?

ボールを飛ばした男の子が私の状態を見かねて宗一郎にオロオロと話しかけると、「黙ってて」と一言で一蹴されていた。あれ、ちょっと不機嫌な声だ。


「……ぐす」
「ほら名前、鼻血出てるんだから下向いて。このくらいで泣かないでよ」


彼から言われるままに従い少しジッとしていると、隣で立ち上がる気配がした。「名前も立って」と背中に手を添えられ、ゆっくりと膝を伸ばす。


「それじゃ……後は任せてくれる?」


にっこり、爽やかな笑み付きで私の友人の方を見た宗一郎。何度も首を縦にして頷く彼女の頬が赤いのは気のせいだろうか。忘れかけてたけど、そういえば彼は昔から女の子にモテるんだった。

様子を伺っていた男の子が「あ、俺も……」と言ってついてくるのを、宗一郎はさっきとは違って笑っていない目で制す。血まみれのハンカチを押さえながら、ドキドキとやりとりを見守るしかない私。


「中庭でバレーもいいけど、もう少し周りに気をつけなよ」
「……ハイ」
「名前のことは俺が保健室に連れて行くから」
「……オネガイシマス」


喧嘩腰の宗一郎が珍しかった。すっかり萎縮してしまった彼を置いてさっさと歩みを進める。保健室についた頃にはいつもの幼馴染に戻っていて、知らぬ間に緊張していた私はなんだかホッとしてしまった。「なに?」と見下ろしてくる宗一郎に「なんでもない」と言って、それからありがとうと感謝を伝えた。

その後、少しして教室に戻った私を待ち構えていた友人たちが「神くんかっこよすぎ!」と大盛り上がりしていて、つい先ほどの出来事がもう噂になっているのかと驚いた。颯爽と現れて王子様みたいだった、と話す友人に心の中で待ったをかける。確かに宗一郎には助けて貰ったけど、あれは王子様というには少々手荒すぎやしないだろうか。

こうしてまた幼馴染の人気が上がるのだった。



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