嫌よ嫌よも | ナノ
たとえば、ほかの子を選んだとして
( 12/12 )


部活の先輩に凄い人がいる。

バスケがうまくて人格者で、とても面倒見のいい先輩だ。そして俺は、その人になんでも相談をしていた。有難いことに先輩は俺の話をよく聞いてくれた。


「牧さんって、今彼女いるんですか?」
「……なんだいきなり」
「いや……その辺、聞いたこと無いなって思って」


ある日の部活帰り、ふと気になって隣にいた牧さんに話を振った。
牧さんが選ぶ女の子はどんなタイプなんだろうと純粋に気になったのが理由の一つ。あと一つは、俺が最近とある存在に悩まされているからだ。

牧さんは俺の様子に少し首を傾げて、それからすぐに口を開いた。


「……いない、な」
「あれ、意外でした」
「そうか?」
「だって絶対モテるでしょ、牧さん」
「ハッ……どこにそんな根拠があるんだ」


俺が「絶対」を強調したことに、牧さんは苦笑していた。実際のところ、牧さんがモテていない筈がない。全国区のプレーヤーで、成績もよくて、見た目だってワイルドで男らしいし。
間違いなく、女にも男にもモテる男だ。少なくとも俺は好きだ……もちろん先輩として、だけど。

そんなことを力説していたら、少し顔を赤くした牧さんが俺の後頭部を小突いた。決して痛くはなかったけど「痛いですよ」と笑えば、先輩もニヤリと口元を緩めていた。


「なんだ、こんな話をしてくるってことは、女絡みで困ってるのか?」
「えっと……困ってるというか、迷ってるというか……」
「ん?」


さすが鋭い。やっぱり牧さんにはお見通しだな、と小さくため息を吐く。

実は前に俺が監督からセンターを諦めろと言われてシュート練習を始めた時にも、真っ先に声をかけてくれたのは牧さんだった。
誰よりも貪欲にバスケと向き合い、勝つために努力を惜しまない先輩の背中を俺はいつも追いかけている。バスケに真剣に取り組む人間に対して、この人は絶対に真剣に返してくれる。そしてコートの外でも、何かと察して気にかけてくれる牧さんを頼ることが多かった。


「実は、気になってる子がいて」
「やっぱりそうか」
「でもそれが幼馴染だからか、女だからか……分からないんです」
「ああ……そういや武藤が言ってたな。可愛い子なんだろ?」
「……まあ、そうですね」


武藤さんが名前のことを言ってた、と聞いてドキリと心臓が音を立てた。そんな俺に気付かず、牧さんは少し前を歩きながら「神も悩んだりするんだな」と、楽しげに笑っている。


「俺だって悩みますよ……人並みに」
「ハハッ……まあ、あれだな。今のお前を見てると、答えなんてとっくに出てるような気がするが」
「……ですかね」



なんてそんな話を牧さんとした翌日。

部活を終えた俺を待ち伏せていたのは、名前じゃなくて隣のクラスの普段よく話しかけてくる女の子だった。


「神くん……お試しでもいいから、私と付き合って欲しいのっ」


牧さん曰く、俺の中でとっくに出ているその「答え」とやらが合っているのかどうか。分からなければどんな形であれ確かめればいい。


「(本人もこう言ってるし……まあ、物は試し)……うん、いいよ。付き合おうか」


この時の選択を後々とても後悔することになるなんて、この時の俺は考えもしないまま。
少しの沈黙のあと、了承した俺を真っ赤にした顔で見上げる女の子の名前は、なんだったか。


「うっ、え、えええ??!」
「……?」


あまりの驚き様に少し可愛いなと思った俺は、知らないうちに笑みを浮かべていたらしい。でもたぶんそれは、この女の子の表情がほんの少しだけ名前に似ているからだと、頭の中の片隅で冷静に考えている俺がいた。


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