嫌よ嫌よも | ナノ
君に構いすぎる理由
( 11/12 )


最近の俺は、シューターのポジションとしてそれなりに実力が付いてきたと思う。今日の練習試合ではそれを発揮するつもりで、前から楽しみにしていたのに。現実は、得点差が付いたタイミングでの出番、そして数分で途中交代だ。

バスケ強豪校の海南で、1年でベンチ入りするだけでも凄い、だなんて言われても。それだけで満足するような人間がスタメンになれるほど甘くは無い世界だ。


「あ……」


オフェンスの課題を思い浮かべながら帰り道を歩いていると、少し先の角からよく知る人物が現れた。夕ご飯のお使いでも頼まれたのか、その両手には大きな買い物袋。その姿を見つけて、自然と口元が緩む。


「お嬢さん、お手伝いしましょうか」


声をかけた俺を振り返り、名前は驚いた顔をして、それから少し安心した様子を見せた。


「……なんだ、宗一郎か」
「ずいぶんと多い荷物だね」
「あ、ちょっと……別にいいのに」
「いいからいいから」
「……?」


さっと買い物袋を取ると、初めは遠慮していた彼女も今は気にせずに隣に並んだ。

俺たちはこうして隣を歩くのが当たり前。荷物を持ってあげるのも、家まで送り届けることも、ついでにご飯をご馳走になって、名前の家族の団欒に混ざるのだって、全部が俺にとっては普通のことで。今までは気にしなかったそれらが、今はとても特別なことのように思える。



「ねぇ……何かあったんでしょ?」


それまで雑誌を読んだりして寛いでいた名前が、いつまでも部屋に入り浸る俺を見かねて口を開いた。その呆れたような声音に、俺は彼女の髪を弄っていた手を止めた。


「どうしてそう思うの?」


何かあったと言えば、あった。今日の練習試合でうまくいかなかった事が、いつまでも胸の中に燻っていた。けど、そもそも名前に愚痴りたかったわけじゃないから、それを顔や態度に出したつもりはなかったのに。


「宗一郎が鬱陶しいくらい私に構う時は、だいたい何かあった時だもん」


はっきりと言われて、一瞬動きが止まる。そのあとは、何故か笑みが浮かんできた。

鬱陶しいなんて女の子に言われたのは初めてだ。「なんで笑うの」と拗ねる名前の頭に手を伸ばし、ぽんと撫でた。

たしかにそうだ。思えば、何かあった時の俺は部屋にこもって黙りをきめこむか、もしくは名前の部屋に押し掛けて、迷惑なくらい彼女に構って嫌がられていたような気がする。これまで何も言われなかっただけで、やっぱり名前は俺に何かあったこと、気付いていたのか。

それって、言葉にしなくても理解してくれてるってことだろ?そう思うと滅茶苦茶嬉しいんだけど。ああ、笑いが止まらなくなってきた。くつくつと肩を震わせる俺に向かって近くのクッションを投げて寄越した名前。


「……ありがと、名前。実はちょっと落ち込んでたけど……元気でた」
「頭にクッションぶつけられて感謝するなんて、変なの」
「そうかな。名前ほどじゃないよ」


名前のことだから細かく言わなくても、部活で何かあった事ぐらいは分かっていると思う。けれど無理に聞こうとはしない。

はあ、ほんと。ちょっと前まではこんなに……こんなに、特別だと思ってなかった筈なのに。


「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「はいはいまた明日ー」


立ち上がって、ドアの手前で足を止める。


「名前……俺から離れて行かないで、ね」
「……え、なに?」


小声で呟いたそれは、どうやら名前には聞き取れなかったみたいだ。まあ、それでいいんだけど。彼女は何を言われたのかが気になるようで、ジッと俺を見つめて、もう一度「なに?」と首を傾げる。


「なんでもないよ。お腹出したまま寝て、風邪引かないようにね」
「なっ、もう、そんなことしないってば!」


適当に誤魔化して、今度こそ部屋を後にした。
同じマンション内にある自分の家に向かいながら軽く息を吐き出し、また明日からの部活に向けて気合を入れ直した。



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