嫌よ嫌よも | ナノ
生まれて初めて自覚した
( 10/12 )


どうも名前のことが気になる。

これ以上ないくらいに近い距離で育ってきて、もはや兄妹のような気の置けない存在である彼女のことが。今さら気になる。気になって無意識のうちに目で追ってしまう。そして、なんだか気に食わない事ばかりが目に付いた。

例えば、いま名前が廊下の先で仲良く喋っているあの人物。……よく見たら、いつかのバレーボールの奴じゃないか?名前の顔にボールをぶつけた男。彼女の交友関係を全て把握しているわけじゃないけど、とくに親しい間柄ではなかった筈だ。

なるべく不自然じゃないように、素知らぬ顔で二人の近くを通りかかってみる。


「……え、貰っていいのか?」
「たまたま余ったやつだからあげる」
「なんだ余りかよ!」


楽しげな会話が聞こえて思わず足を止めた。
バッと顔を向けると、なにやらお菓子の包みを手渡している名前。

……は?俺はそんなの貰ってないんだけど。


「名字のオススメは全部うまいよな」
「そんなこと言ったって、この鼻の痛みは忘れないよ?」
「あっ、おまえ、まだそれ言うか!」
「だって……痛かったもん」
「謝っただろっ」
「あはは、冗談だってば」

「…………」


なんか、めちゃくちゃ仲が良い。見過ごせない。

名前がどこの誰と仲良くしてようが、問題ないはずなのに。他の男と一緒にいるからって、別に……

ぎゅっと口を閉じてその場を去ろうとした俺。ちょうどその時、廊下で燥ぐ他の生徒が、名前とすれ違いざまに肩をぶつけた。


「う、わっ」
「名字……!」


見た目よりも勢いがあったのかそのまま転びそうになる名前に向かって、咄嗟に手を伸ばした。隣の男よりも速く。グイッと肩を抱いて彼女の体を支える。


「!!……あ、ありがと、宗一郎」
「どういたしまして。けど、名前は気を抜きすぎ」
「い、いまのは不可抗力でしょ?」
「毎回フォローする俺の身にもなってよ」
「じゃあほっといてくれたらいいのにっ」


至近距離で言い合う俺たちを見守るだけのバレーボール男。腕の中を見下ろす俺と、見上げる名前。


「と、とりあえず……怪我しなくて良かったな、名字?」


そうだけど、と納得いかない様子の名前は気付いていない。未だ肩を抱いて触れ合う俺たちに向けられる好奇の視線。目の前の男だけじゃなく、周りの生徒たちもチラチラとこちらを見ている事に。


「あの二人って付き合ってるの?」
「さあ……幼馴染って聞いたけど……」
「それにしては、ねえ?」


そんな会話を耳にして、口元が微かに上がる。悪い気はしなかった。


「あ、名前」
「……なに」
「今日は部活無いんだ。一緒に帰るよね?」


わざと聞こえるように言った。名前と親しげなこの男に「幼馴染」という関係を見せつけるように。

鈍感な名前は特に気にした風もなく、二つ返事で了承する。たったそれだけのことで俺の心は満たされ、さっきまでのドロドロとした気持ちが嘘のように無くなっていく。


俺はこのとき生まれて初めて、これが独占欲だと自覚した。


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