嫌よ嫌よも | ナノ
言われなくても分かってる
( 9/12 )


練習後の自主練にもようやく慣れてきた。最初はキツかったしかなり時間もかかったけど、毎日少しずつ確実に俺はアウトサイドシュートを物にしていった。


「武藤さん、足はもういいんですか」
「おう。シューティングくらいなら問題ないって。それより神、お前本当に綺麗なフォームしてんのな」
「……そうですか?」
「シュート率も悪くねえし、いいと思うぜ」


俺も負けてられねえな、と呟く先輩に小さく笑い返す。先日の練習試合で足を怪我していた武藤さんは、リハビリを兼ねて俺のシュート練習に付き合ってくれていた。今日は名前の部活が無い日だったので、とても有り難かった。



パサ、と500本目が決まったところで、ふと、体育館の入り口に誰かの気配がした。


「……あ、れ?」


振り返った俺と目が合い、次に武藤さんの存在に気付いて固まっている名前。残っていたのが俺だけじゃないことに驚いたらしい。

家に帰っているはずの彼女がどうしてここにいるのかを尋ねようとしたら、それよりも早く武藤さんが名前に話しかけていた。


「君、どうした?体育館に何か用?」
「あ……えっと、その」
「もう片付けて鍵閉めちまうけど」
「あの、あの、……そ、宗一郎!」


人見知りを発動している幼馴染に助け舟を出そうと二人に近付けば、サッと俺の隣に並ぶ名前。それを見てくつくつと笑いだす武藤さん。

お前の彼女かと聞かれ首を横に振り、幼馴染ですと答えれば、ふうん?と楽しげな視線で返された。


「名前、なんでここに?」
「友達のところに遊びに行ってたの。帰りが遅くなって……通り道だから、宗と一緒に帰ろうと思ったんだけど……」


そう言ってちらりと先輩の方を見上げた。俺に対するいつもの生意気な態度はどうしたんだと呆れるやら、けれどこういうとき俺を頼るところは悪くないなと思ったり。

そんなことを考えながら何気なく見た時計はかなり針を進めていて。とりあえず片付けと着替えを済ませましょうと切り出した俺に、武藤さんも慌てて頷いた。



「へえ、名前ちゃんは料理部なのか」
「はい!」
「それで神に作ってやったりすんの?」
「うーん……たまに、ですけど」
「なんだよ羨ましいなオイ」


ぐい、と肘で突かれ乾いた笑いで返す。

途中まで帰り道が同じだからと、俺と名前の間で歩く先輩はいつもより楽しげだった。自己紹介したあとは名前も終始朗らかに笑っていて、もう気後れしている様子もない。

可愛い幼馴染だな、と俺の方を向いて小声で話した武藤さんに、頬がピクリと引きつった。



「なんか、面白い先輩だったね」


マンションでの別れ際、そんなことを言い残した名前に大きな溜め息がでた。人の気も知らないで、と指を伸ばし、その丸い額を丸めた指で弾く。


「痛っ……え、なんで!?」


いわゆるデコピンをされた名前は、額を手で押さえて俺を睨みつけた。そんな顔されても別に怖くないけど。


「あんまり懐かないでよ」
「はぁ?懐くって?」
「…………」


まだ上手く言えない。別に武藤さんが嫌いなわけじゃないし、バスケ部の先輩として尊敬もしてる。だけど二人が仲良く話してるのを見るのは、なんとなく面白くなかった。それだけのこと。

名前が可愛いことなんて、俺はずっと前から知ってるんですよ、先輩。


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