夢から醒める夢を見て | ナノ
だれも知らない恋をした



おかしい。

最近、気付くと彼のことばかりが頭の中に浮かぶ。あの去り際の笑顔と、私を抱えてくれた逞しい腕が……って、ああ、また思い出してる。


「どしたの名前?」
「えっ……あ、いや、べつに」
「……牧君と何かあったとか?」
「ないない、ないよ」


ぶんぶんと首を振って力一杯否定する。食べかけだったお弁当の残りに手を伸ばし、探るような愛子の視線からなんとか逃れた。大きな学校だし、そう毎日牧と顔を合わせる訳でもなかった。

残りの授業中も、ふとした時に清田のことを思い出した。挫いた足はとっくに治っていたし、あの日以来見かけることもない。あの時は呆然としてまともにお礼も言えなかったから、どこかで会えたらありがとうと言いたいのに。

自分が誰かのことをこんなに気にしているのが不思議で堪らなかった。






夜になると無性にアイスが食べたくなってコンビニへ向かった。私だってそういう気分の時もある。家からすぐ近所だからと、適当なTシャツにジーンズ、母の健康サンダルという気の抜けきった格好で家を出た。マンションのエントランスを抜け、道路に出て五分もしないうちに目的地に辿り着く。


「……ん?」


真っ白な蛍光灯の下、コンビニの入り口付近に、ずっと求めていた人物の姿があった。驚いた私は見間違いじゃないかと、何度か瞬きを繰り返した。いや確かに本物だ。買ったばかりだろうか、手にあるパンを頬張りながら、もうひとりの男の子と楽しげに話している姿は記憶の中と一致している。

彼、清田もそれなりに背が高かったけれど、向かいの子はもっと高い。何かスポーツでもしているのかな、なんて考えていると、私の視線に気が付いたその子とバッチリ目が合ってしまった。私より先に「どうも」と会釈をした彼をよく見ると、なにやらとても見覚えのある顔だった。たしか同じマンションに住むご近所の息子さんだ。神さん家の……宗一郎君だったかな?


「神さんの知り合いっすか?」
「……まあね」


二人の声にハッと我にかえった私は、咄嗟に前髪に手を伸ばした。こんな時に限ってこんなボサボサ髪で……服なんて目も当てられない。制服ならともかく。失敗した、と後悔しても遅い。


「……っ、あ!」


突然、声をあげた清田。どきりと心臓が高鳴る。


「もしかして、ぶつかった先輩?」
「え、あ……そうです」
「やっぱり!怪我はもう大丈夫っすか?」


まさか彼の方から話しかけてくれるとは思わなくて、ろくな返事ができなかった。にっこり笑って気に掛けてくれる清田は、やっぱり良い子だ。

なんとか自分を落ち着かせて彼の方を見た。


「その節は……どうもありがとう。あと、遅刻させちゃってごめんね」


うん、ちゃんと自然に言えた。私が謝ると、ぽっと頬を染めてはにかむ清田。どうして照れたのか分からないけど、なんなんですかこの子……可愛すぎない?おかげで、きゅん、と胸が苦しい。

仲良く自転車の二人乗りをする彼らを見送って、ふぅ、と軽く息を吐き出す。


「……どうしよう」


さすがに、気付いてしまった。今まで誰に告白されても何も思わなかった私が。それどころか恋愛なんて面倒なものとしか思っていなかった私が。

……清田に恋しちゃってる、なんて。


「っ、とりあえず……アイス」


意識した途端、とてつもなく恥ずかしくなった私は火照った顔を冷ますため、ようやく目的だったコンビニに足を踏み入れた。


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