夢から醒める夢を見て | ナノ
飽きてくれたらいいのに



ああ、煩い。聞こえないふりをしてても、やっぱり聞こえてしまうからうるさい。


「調子乗ってるよねぇ……」
「ちょっとモテるからってさ」


校門から教室に着くまでの僅かな距離でも囁かれる悪口。私がもっと出来た人間ならこういうことを言う人たちとも少しは仲良く出来るんだろうけれど。自分が調子に乗っているとも思わないし、なにも好き好んでモテている訳じゃないのに…って、こんなこと言うと、また親友に呆れられてしまうかも。


「おはよう、名字」


牧に告白されたあの日から、変わったことがもう一つある。


「……おはよう」
「今日の髪型いいな。似合ってる」
「それは、どうも……」


当たり前のように話しかけてくる牧。告白を断ったというのに彼はそれを気にもせず、出会えば必ず声を掛けてきた。似合ってるって、ただ寝癖のついた髪を誤魔化すために一つにまとめただけだ。アレンジなんてしてないし、左右対称かすら怪しい。



「ほんと、なんなんだろ」
「……いいじゃん。あの牧君に好かれてるんだよ?」


一日の授業を終えて溜息を吐くと、いつも通りの愛子がそこにいた。先日感じた違和感はもう無い。


「私、牧のことよく知らないし」
「名前は……誰にも興味ないもんね」
「……誰にもって訳じゃないけど」
「例えば?」
「…………」
「ほらね」


彼女は得意げに微笑み、私のおでこを軽く突いた。されるがままなのは全て愛子の言う通りだからである。


「じゃあ私、部活行ってくるから」
「ん。いってらっしゃい」


ひらりと手を振って背を向けた愛子は、実は女子バスケットボール部に所属している。だから牧に関しては私より詳しくて、そんな彼女がいいと言うなら、きっと彼はいい人なんだとは思う。けど……ただそれだけ。いい人と聞いて簡単に頷くことが出来ない私は、天邪鬼だ。そもそも牧は一体私のどこを気に入ったんだろうか。

別に友達がたくさん欲しいわけじゃないし、どうしても彼氏が欲しいわけじゃない。それなりに毎日を過ごして、そのうち高校も卒業して……大学に行って。社会に出て働いて、いつか誰かと結婚できたらいい。そんなありきたりで平凡な人生を望む。

だから、必要以上に他人に興味なんか持っていない。私は持っていない、けれど……周りはそうじゃないようで。


「えー!あの人が牧先輩の…?もっと綺麗なひとかと思ってたぁ」
「しっ、聞こえるよ!」
「学年で一番美人とか言うから見に来たのに」


ふと聞こえた内容に、またかと内心呆れる。わざわざ3年の教室まで足を運んで私のことを見に来たらしい。下級生のその女の子たちの方を見ることはしないが、それでも遠慮のない会話はバッチリと耳に届いていた。

みんな私なんかに構わずもっとやる事ないのかな、と深いため息。ここしばらくは一生分のため息を吐き出している気さえする。お願いだからほどほどに飽きてくれないかな、とそんなことを考えながら、ひとり足早に教室を出た。


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