恋なんてよくわからない
「昨日も告白されたの!?」
そう言って驚きの表情を見せたのは、親友の愛子。私の机に両手を乗せて、ずいっと前のめりに顔を寄せる。近付いた彼女の髪からはふわりと甘い匂いがして、思わず鼻をすんと動かした。新しいシャンプーかな。
「……うん、まあ」
「それで返事は?」
「そりゃ断ったよ……他校の知らない人だったし」
「はぁ〜、名前のモテっぷりは相変わらずね」
「モテっぷりって……」
愛子の盛大な溜め息に目を細める。そうは言われても私だって好きでこんな状況を作ってる訳じゃないのだ。
好きとか嫌いとか、付き合うとか付き合わないとか、私にはイマイチよく分からなかった。高校3年にもなって恋愛に興味がないというだけで、そんなに可笑しい事なのだろうか。
「高校入って何人め?」
「……さあ、数えてない」
「くぁー……言ってみたいわ」
バタン、と机に突っ伏す愛子をそっと見下ろしていると、隣の席の男の子にどうかしたのかと声を掛けられる。「何でもない」と自分でも自覚するほど適当に返事したというのに、にっこりと笑顔を返された。…なんで顔赤いの?
視線を戻すと、こちらもニヤニヤとした笑みを浮かべる親友。
「……何がいいのか分かんないけど。なんで大して喋ったこともないのに好きとか言うのかねぇ」
「ちょっとそれ、嫌味だよ」
「そんなつもりは……」
「まぁ、名前のそういうとこ、私はちゃんと知ってるけどさ」
愛子は私のことをよく分かってくれてる。思ったことをすぐに言ってしまう所だったり。面倒くさがりな性格だったり。だからいつも彼女には助けてもらってばかりだし、私は愛子以外に仲のいい友達というのがいなかった。それでいいとも思っていた。
「……ありがと」
「どういたしまして」
それがある日、一人の男の子に告白されたことで大きく変わっていくなんて、思いもしない。