08
先日、俺のクラスでは席替えがあった。席なんて一番前以外ならどこでも構わないと思ってたけど、後ろの方の窓側に決まるとこれはこれでいい感じに気を抜けて悪くないなと満足していた。なにより前後左右が男だから「そういう」視線が少なくて良かった。
流石は俺、持ってるものが違う。と口にはせずにほくそ笑む。
(……ソフトか)
退屈な授業中、なんとなく窓の外を眺めていると、どっかのクラスの女子がソフトボールの試合をしていた。ほとんどのやつが適当で、内容は見ていられないほどだ。ちょっとは真面目にやればいいのになんて、授業を聞き流している自分のことは棚に上げて心の中で好き放題に言う。いやでもまじで、怪我するかもしれないじゃん。
(あ?次の打者……もしかして)
一人の女子がバッドを両手で振りかぶり、バッターボックスに立った。かなり遠目だけど、なんとなくそれが誰か分かってしまった。あれは名字だ。やっぱり視力からして持ってるものが違うんだな俺は、うん。それ以外の女子はまったく見分けなんてつかないけど。
(おー……運動できるんだ、あいつ)
思い切ったスイングで綺麗に飛ばされた白球が外野の横を抜けていく。その気持ちいいほどの強打に感心していた俺は、次の瞬間慌てて頭を振った。教科書に視線を戻して深呼吸をする。
(……だから、名字のこと、見すぎなんだって)
そう思いながら、最後にもう一度校庭を見やる。試合は次の打者がアウトになり、名字が点を入れる前に攻守が交代していた。