07
「……なあ藤真、ずっと気になってたんだが」
「ん?」
「名字のことが好きなのか?」
放課後、練習を終えた帰り道にふとそんなことを言いだした花形。俺が「なんで」と聞き返す前に「よく見てるだろ」と確かめるように見下ろしてきた。くそ、でかすぎて見上げるのも疲れる。
「まあ確かに……見てはいるけど」
「やっぱり」
「でも好きとかじゃないって。なんというか、俺にも色々あんだよ」
「……へえ?」
納得いかないって顔で笑う花形を肘で小突く。器用なことしやがって。
そりゃまあ、名字が好きかと聞かれてイエスかノーで答えるなら間違いなくイエスだ。喋ったことはないけど仕草とかちょっとした癖とか、あいつの視線の先が誰とかある程度は分かるようになったし、特に嫌う理由なんて無いし。
……あれ?でもこれって結構やばくね?もしかしなくても俺、名字のこと見すぎか?
「俺が気付くくらいなんだから、気をつけないと変な噂がたつかもしれないぞ」
「そう、だよな」
「でも良かったよ。もしお前が名字のこと好きだとしても、彼女には目当ての男がいるみたいだから」
「……花形も気付いてんだ?」
「まあ、あれだけ分かりやすいとな」
まさか俺以外にも名字が高野のことを好きだと知ってるやつがいるとは思ってなかった。それにしても花形の言う通り、俺はちょっと自重したほうがいいのかもしれない。周りに変に勘違いされても困るし、名字の片思いを邪魔したくはないし。
自分でも不思議なほど名字を意識してしまうのは、あの日、彼女の想いびとを勝手に聞いてしまった罪悪感からだ。だからその恋路を見届けたいだけ。俺が名字をつい目で追ってしまうのは、きっとそういうことだと自分に言い聞かせた。