48
「花束を作りたいんですけど」
しっかりと定時で仕事を終え、帰り道にある花屋で色とりどりの花を見渡した。店員さんに誕生日の祝いだと伝えれば、愛想のいい笑顔で手際よく花を選んでくれた。
今日は最愛の奥さん……名前の誕生日だった。夜はパーティーをするから早く帰ってくるようにと息子に頼まれていて。今日一日それを思い浮かべるたびに頬を緩めていた俺は、会社で色んな人から「機嫌がいいね」と声をかけられたのだった。
「わあ!すごく綺麗……」
帰宅してすぐに花束を渡すと、いつまでも可愛い笑顔が返ってきて、すぐに口付けたい衝動に駆られた。けれど、さすがに息子の目を気にしてグッと我慢をし、髪を撫でるだけにとどめる。そうして用意されていた豪華な夕食と、テレビでも話題になっているという店で買ったケーキをペロリと平らげた。
「二人ともありがとう!」
「おめでとう、名前」
俺が準備していたプレゼントと息子からの似顔絵のプレゼントを手に、満面の笑みを浮かべる名前。喜んでもらえて良かったとひと安心していると、彼女がなにやら息子へコソコソと耳打ちをしていた。
(……ん、なんだ?)
話し終えると俺の方を見てニコニコと笑う二人に、キョトンと首を傾げる。俺だけ仲間外れか?と少し拗ねた顔をすれば、ますます笑みを深めた二人。
「なんだよ二人して」
「……ふふふ」
「あのね、あのね、おとーさん!」
くすくすと笑いだす名前と、頬を少し染めてキラキラとした目を向けてくる息子。なかなか先を聞けず「気になるだろー」と息子の頭を撫でれば、ようやく続きを口にした。
「ぼく、兄ちゃんになるんだよ」
「は?」
「お兄ちゃんになるんだよね?」
「うん!」
「え……、あ……もしかして」
その意味を理解し、胸の中がじわりと暖かくなる。口角が勝手に上がり、同時に少し目頭が熱くなった。この感覚には覚えがある。人は嬉しすぎる時も涙が出るんだよな。
「……今度は名前に似た女の子がいい」
はにかむ名前をそっと抱きしめ、耳元で囁く。。ああ、なんてことだ。いまのままでも死ぬほど幸せだったというのに。それ以上に幸せがまた増えた。名前の足元で手を伸ばし「ぼくは弟がいい!」と主張する息子もまとめて家族を腕の中に抱きしめた。
俺の初恋は、いまだ炎上している。
fin.
17/10/10〜18/07/26