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「なあ、いまどっち見てた?」
「え……?」
休日の公園。ベンチに並んで座りながら、名前の手をぎゅっと握った。程よい日差しと気持ちのいい風に目を細めていると、名前がある一点を見つめているのに気が付いた。俺も同じように視線を向けると、そこには無邪気に戯れる父と子の姿。
「父親の方だったら許さない」
「もう……そんなわけないから」
「うん、まあ、冗談だけど」
「……この子が生まれたらあんな風に健司くんが遊んでくれるのかなって、考えてた」
そう言って大きくなったお腹を愛おしそうに撫でる名前。当たり前だろ、と俺が口を尖らせて見せると、彼女は目を細めて微笑んだ。
「……ちょっと落ち着きなさい?」
「そうよ健司くん。名前なら大丈夫よ」
時折窓の外を眺めては、待合室で行ったり来たりとうろちょろする。他にすることがなく、かといって大人しく座っていることも出来ない俺を、二つの目が呆れたように見上げていた。
(あー、……ほんと、俺、何もできねーな)
立ち会いは不要、と笑って言った名前。外で待っててくれればいいからと話す彼女に、俺のほうがオロオロしていたのがつい数時間前のことだ。そんな俺とは正反対に、まったりと椅子に腰掛けている自分の母と義理の母。その落ち着きからは彼女たちの絶対的な余裕が見て取れた。さすがに経験者たちは違うな、と思わず感心する。……それと、母親同士の仲が良すぎて少し驚く自分もいた。いやまあ、仲良いに越したことはないんだけど。
「男はどっしり構えとけばいいのよ」
「案ずるより産むが易しってね」
(女の人って、すげーな……)
ふう、とひとつ溜息を吐き出す。そうしてようやくソファに腰を下ろしたとき、確かに、俺の耳に泣き声が聞こえてきた。バッと顔を上げ、駆けてきた看護師さんを凝視する。
「元気な男の子ですよ」