初恋大炎上 | ナノ
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長いようで短かった大学生活を終えた。流れるような時間の中で、社会人としてそれなりに振る舞うようになった頃。郵便受けに一つの知らせが届いていた。



「立食パーティーねぇ。ずいぶん派手な同窓会だよな」


賑やかなホテルのフロアで、適当に取った料理を口に運ぶ。隣に立つ花形は、手にしたグラスを傾けてからクスリと笑みを浮かべた。


「なんでもどこかのクラスの先生が定年を迎えるとかで、その祝いも兼ねてるんだと」
「ふーん?」
「興味ないか」
「……まあな」


実を言うと俺もだ、と言って少し退屈そうにする花形がこの同窓会に参加した理由は特にないんだろう。けど、俺にはその理由があった。


「藤真くん、元気にしてた?」
「二人って相変わらず仲が良いんだね」
「大きいから遠くからでも花形くんってすぐに分かったよ」


さっきからひっきりなしに近づいてくる顔も名前も覚えていない同級生たち。俺らは揃って愛想笑いを浮かべ、若干下心の見え隠れするそれをするりと躱す。はっきり言って疲れる。疲れはするが、こうなる事が分かっててわざわざこの同窓会に参加した理由は、一つしかなかった。


「おい藤真……いいのか、大事な彼女が口説かれてるみたいだぞ」


なんだそれどこのどいつだ、と花形が指差した方へ視線を向ける。これだけ大きな規模の同窓会だからか、人ひとりを見つけるのは少し難しい。が、俺の目は名前の姿を捉えた。そうしてすぐに足を向ける。



「名字、ほんと綺麗になったよな」
「あはは……ありがとう、嬉しい」
「いま付き合ってるやつとかいるの?おれ、立候補したいな」


案の定、どこのクラスだったかも分からないような男に絡まれていた名前。俺がそれを黙って見守る訳もなく。


「勘弁してくれ」


軽く咳払いをしながら迷いなく会話に割って入った。彼女の肩に手を添えるのを忘れない。邪魔をされた男は一瞬眉根を寄せたあと、俺の顔を見て今度は驚きの表情をした。まさかまだ付き合ってたのか、とでも言いたげな様子に少し苛立ちながら、あまり事を荒立てないよう静かに口を開く。


「そういうことだから、悪いな」


ようやく理解したそいつが慌てて退散するのを見送り、苦笑いの名前をそっと見おろす。こんなことがあるだろうから、俺は同窓会に参加せざるを得なかった。名前が行くから、本当に仕方なく、だった。


「……なあ、もうさ、藤真名前って名札でも付けといたら?」
「いやだよそんなの、女の子たちに睨まれちゃう」
「今さらだと思うけど」


高校卒業の時、盛大な告白劇を繰り広げたものの、俺たちが今でも付き合っていると思ってた奴は少ないらしい。失礼な、と内心舌打ちしていると、背後からこちらに近付こうとする気配を感じて振り返った。


「俺にまでそんな目を向けるなよ」
「なんだ、花形か」
「お前な……誰彼かまわず嫉妬するのはやめておけ?」
「うるせー」


やれやれ、と溜息を吐きながら腕を組む花形。反対側からはくすくす笑う声が聞こえ、「やっぱり健司くんは心配しすぎだよ」と目を細められる。


(……自分の彼女の心配して何が悪いんだっての)


まるで俺が聞き分けの悪い子供みたいな状況が納得いかなくて、それ以降名前に近付こうとする男全部により一層目を光らせるのだった。


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